IOCにひれ伏し
開催に踏み切る日本政府

 五輪をテレビで見たという人の数は、ロサンゼルス大会が25億人。それがアトランタでは40億人に膨らんだ。

 パルテノン神殿など極めてテレビ的な世界遺産の存在と、ヨーロッパ、米国にとって放送に都合がいい時差のおかげで、アテネ大会の視聴者数はさらに増えただろう。広告主にとってこんな有り難いことはあるまい。

 競技スケジュールも、選手のコンディションではなく米国のテレビ放送時間に合わせて組まれるようになった。アスリートファーストなど虚構でしかない。

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 今やIOCの収入の7割がテレビ放映権、そして2割強がスポンサー収入。チケット収入の占める割合は1割にすぎない。

 アテネのテレビ放送権料はシドニーを上回る14億7000万ドル(1617億円)。このうち51%がIOC、40%がアテネ市に振り分けられたから、チケットなど売れなくてもよかったのだ。

 選手のウエアやシューズは企業ロゴだらけ。目に余る商業主義がオリンピック組織の腐敗を引き起こしている。

 平和の祭典オリンピックがこれでいいわけがない。金と欲にまみれたメダル競争はいったい誰のためなのか。

 ところが、国民の8割近くの反対の声を封殺し、数多くの飲食店を見殺しにした上、東京都も日本政府もIOCという「五輪クラブ」にただひれ伏して多額の税金を賭してまで無観客開催というぶざまな五輪開催に踏み切った。海外からの観光客も期待外れだ。

 2020東京五輪の評価はこれからだが、世界中がウイルスと地球規模の闘いを繰り広げているさなかに開催された「コロナ・ゲームズ」として歴史に記されることは間違いない。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)

【訂正】記事初出時より以下のように訂正します。
8段落目:メジャーリーグ(MLB)コミッショナーで商売上手のピーター・ユベロス→米実業家で商売上手のピーター・ユベロス
16段目:オリンピックの貴族たち→黒い輪
27段落目:5割がテレビ放映権、そして3割以上がスポンサー収入→7割がテレビ放映権、そして2割強がスポンサー収入
29段落目:記者会見場の背景にもスポンサーのロゴ入りボードが必ずといっていいほど置かれている→削除
(2021年8月3日12:57 ダイヤモンド編集部)