2020年時点の「コロナとの戦い」では、米国は「負け組」、日本は「勝ち組」のような気がしたが、情勢は激変した。日米の実質個人消費の推移を比較すると、コロナ禍以降の回復度合いに激しい差が付いているのだ。さらに驚くべきは、コロナ禍前までの消費拡大のトレンドにも大きな格差があること。その背景には日本の賃金の伸び悩みがある。コロナ前から続く、日本と世界の「賃金・消費」の衝撃的格差の実態をご覧に入れたい。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
FRBのテーバリングは11月にも?
「コロナ前」に戻りつつある米国
米金融街「ウォール街」に勤めている友人に最近の金融市場の状況を聞こうと思って携帯電話にかけたところ、米ニューハンプシャー州に今いると言われた。ワクチンを接種して新型コロナウイルス感染の心配がなくなったので、夏休みを早めにとって山岳リゾートに家族で来ているのだという。
在宅勤務は続いているのか尋ねてみた。彼の会社はこの7月から原則的に全員が出社する体制に戻ったそうだ。ワクチン未接種の人はオフィスで自発的にマスクをするよう求められているが、実際は誰もつけずに働いているという(その会社は社員に対して、ワクチンを打ったか否かを聞かない方針にしている)。
米ニューヨーク市のマンハッタン内にある彼の勤務先ビルの1階にはレストランやパブが多数ある。最近は近隣のビジネスパーソンが昼や夕方に大勢集まるようになり、かつての賑わいをずいぶんと取り戻している。やはりワクチン摂取がまだの人にマスクを促す貼り紙があるが、着用している人はまずいないそうだ。
そういった状況でコロナの感染が再爆発しないか気になるところではあるが、米国での人々の暮らしはかなり平常に戻ってきているようだ。旅行や外食などのサービス産業も全米各地で活性化している。そういった自律的な消費拡大が、今後縮小が予想される失業給付金などによる需要下支え策にある程度とって代わることができれば、米経済の回復は(この春よりは減速するとしても)進んでいくことになる。
米連邦準備制度理事会(FRB)は7月28日公表の声明文に、「経済はゴール(雇用の最大化と物価の安定)に向けて進展している。米連邦公開市場委員会(FOMC)は今後数回の会合で進展を評価していく」という文章を新たに記載した。景気の急失速などが起きなければ、早ければ11月にも量的緩和策の縮小(テーパリング)が決定される可能性はあるだろう。
人口当たりのコロナの感染者数、死者数などを見れば、昨年時点の米国は「コロナとの戦い」における「負け組」にいて、日本は「勝ち組」にいたような気がした。しかし情勢はすっかり変わっている。
次ページの図は、2013年初を基点にした日本の実質個人消費の推移を米国のそれと比較したものだ。パンデミック以降の回復度合いに激しい差が付いていることが分かる。