最も保守的な自動車・宇宙ロケット業界で利用

 ところが、イーロン・マスクは、最も保守的といえる自動車業界にベスト・エフォート型で戦いを挑んでいた。例えば、テスラの高級セダン「モデルS」の開発におけるアルファ版(開発初期の試作品)はたった15台だった。これで、インテリアデザインから寒冷地走行テストも衝突試験もやってしまう。しかし、トヨタなど大手自動車メーカーならギャランティ型で“万全を期す”ため、200台以上が必要だった。

 とりあえずやってみる。でも、ダメだったら、原因を解明し、改善する。ベストエフォート型でテスラはこのサイクルを猛スピードで回し、モデルSのアルファ版の台数の少なさを補っていた。

 テスラの自動運転「オートパイロット」もベスト・エフォート型と見ればわかりやすい。

 膨大なテスラ車の実走行データを収集して創り上げるオートパイロットは現時点では完璧ではなく、レベル2だ(完全自動運転はレベル5)。しかし、運転する人が正しく使えば、オートパイロットは画期的に便利なツールである。万が一の場合に備えて、運転手はハンドルに手を置いておくだけで、オートパイロットが目的地へクルマを運んでくれる。そして、万が一の時は、運転手がハンドルを操作すればいい。

 宇宙ロケット開発も非常に保守的な業界だが、スペースXもベスト・エフォート型でここに切り込んだ。

 NASAでさえ不可能と諦めていたロケット再利用にスペースXは挑み、海への軟着水、海上ドローン船への着陸など、何度も失敗を繰り返しながら技術を革新的に進化させ、7回の失敗の末に成功をつかんだ。その間の世間からの辛辣(しんらつ)な批判はイーロンが一手に引き受けた。