「案内チラシ1枚」でがん検診受診率が130倍に!?元P&Gマーケターが語る秘訣写真はイメージです Photo:PIXTA

「ラストワンマイル」――もともとは物流用語で、品物が顧客に届く最後のステップを指す言葉だ。マーケティングにおいても、生活者が商品やサービスを選択する「最後の一押し」は重要なポイントだ。この「ラストワンマイル」を工夫することで、がん検診の受診率を130倍と飛躍的に伸ばした企業がある。自治体に健康診断の受診率向上などの支援を行っているベンチャー企業、キャンサースキャンだ。同社社長の福吉潤氏は、P&Gでブランドマネージャーを務め、マーケティングの技術を培ってきた。受診率低迷に悩む自治体にどのような改革をもたらしたのか。事例を交えて解説する。(取材・構成/伊藤宏子)

地味でも重要な
「ラストワンマイル」

 生活者の心をつかみ、行動変容を促す――そのために考えなければならないポイントは無数にあります。

 派手で目立つテレビコマーシャルやキャンペーンを打って世の中にメッセージを発信していくのが、マーケティングでは花形と思われるかもしれません。しかし私がP&Gでブランドマネージャーを務めていたとき重要視していたのは、商品が生活者の手に届く最後のプロセス、つまり「ラストワンマイル」でした。

 私が担当していたのは洗濯洗剤。競合商品が多く、差別化しにくい消費財です。いくら印象に残る広告を打っても、店頭で見つけてもらえなかったり、他社製品と間違われたりしては売り上げに結び付きません。

 当時、店頭POPなどの売り場作りは新入社員の仕事。華やかな企画の仕事に比べて地味で、誰もがやりたがる仕事ではありませんでした。しかし店頭こそが、それまでさまざまな手法で誘導してきた顧客を購買へと結び付ける、重要な最後の一手。この店頭での工夫が売り上げを大きく左右することを、私は新人時代に学びました。

 この「ラストワンマイル」の工夫は、消費財だけでなく、あらゆる場面で生かせるものだと思います。例えば、私たちキャンサースキャンが支援している「予防医療」の領域もその一つです。