マーケティングを行い、ひいては自社の事業を成長させていくために、「データをどう活用するか」に頭を悩ませる企業は少なくない。“データの海に溺れない”ために、ビジネスパーソンは何を心得ておくべきなのか。自身もマーケターであり、『データサイエンス「超」入門』『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』などの著者である、データサイエンティストの松本健太郎氏が解説する。(構成/ダイヤモンド編集部 笠原里穂)
なぜ「データ活用」が
ビジネスの成長につながらないのか
マーケターである私自身がマーケティングにおいて一番重要だと思っているのは、4P(Productプロダクト、Priceプライス、Placeプレース、Promotionプロモーション)です。よく知られた概念ではありますが、やはり一番しっくりくるものです。
マーケティングというと、プロモーション(宣伝)のイメージが強い方もいるかもしれませんが、単なる広告宣伝にとどめた解釈ではダメ。商品開発もそうですし、特にBtoCでは流通(プレース)もダイレクトに事業の成長や業績に影響します。
そんなカバーする領域が非常に幅広いマーケティングにおいて、さまざまな施策の裏付けとして、データが使われています。
一方で、データを活用しようとしたものの、結局何に役立っているか分からず徒労に終わる……そんなふうにデータの海に溺れてしまうビジネスパーソンも少なくありません。
そこで本稿では、マーケティング、ひいてはビジネスを成長させていくために、データとどう付き合っていけばいいのか、気を付けるべきポイントを整理していきたいと思います。
そもそも、「データ」とは何でしょうか。データを数字だと解釈している人も多いですが、それはものすごく狭い捉え方です。数値ももちろんデータですが、映像もデータです。また定量的なものだけでなく、定性的な表現も含まれます。
私は、データとは「たとえその場にいなかったとしても、居合わせたかのように事実を浮かび上がらせるもの」だと考えています。
しかし、起こったことをそっくりそのまま再現しようとすると情報量が膨大だし、解釈にも相当な時間がかかる。こうした情報を圧縮した上で、例えば1時間で起こったことを1分で把握することができる、これがデータのメリットだと思います。
こんなふうにお話しすると、データはものすごく便利なもので、データさえあれば何か素晴らしい発見があるのではないか……と思う人がいるかもしれません。実際、2010年代には、グーグルが膨大なデータを基にさまざまな指標の相関を発見しました。「データがあれば何か分かるはず」というのが、当時の世の中のトレンドでした。
しかし、そうした発想でとりあえずデータを活用してみようとするのは危険です。当たり前のことですが、御社はグーグルではありません。社内にそんな膨大なデータはないし、データをぐるぐるぶん回して分析してみたところで分かることは限られています。