売上時の天候や顧客属性データなどに基づく仕入れやマーケティングなど、小売りの現場でPOSデータの活用が進むなか、個人経営などの小規模店舗では、POSレジの導入と運用にかかるコストが壁となって、こうした動きから取り残されてきた。
この潜在ニーズに着目したのが「ユビレジ」の木戸啓太氏だ。学生時代にバーテンダーのアルバイトをしていた店舗にはPOSレジがなく、オーダーは紙に書いて会計も手計算で行っていたという。営業終了後には売上を日報にまとめて本部にFAXするという面倒な作業がつきまとい、それにかかる労力に割り切れなさを感じていた。2010年1月にiPadが発表されると、木戸氏はすぐさまこれをレジに使えないかと思いつき、ユビレジを開発。iPadの発売からわずか3ヵ月後の同年8月にはサービス開始に漕ぎつけた。
ユビレジはiPadがそのままPOSレジになるアプリで、お店のメニューを画面に表示しそれをタッチすることでオーダーと会計が行える。レシートプリンタやキャッシュドロア、バーコードリーダーとの接続・連携も可能で、現金・カードなど幅広い支払い手段にも対応する。これだけの機能を月額5000円で利用できる(iPadの機種代は除く)。また、一部機能が限定された無料版も用意されている(売上データの閲覧が過去3日間のみとなる)。
従来のPOSレジよりはるかに低コストで導入・運営できることが評価され、ユビレジはユーザー数2000という規模にまで成長した。導入先にはアパレルや飲食関係の個人経営店が多い。
利用者の声で目立つのが、「大きなレジと違って店内を持ち歩いて使える」「レジ締めの必要がなくなった」「どこからでも売上データがチェックできて便利」といった感想だ。ユビレジのデータはクラウドに保存されてどこからでも引き出せるので、木戸氏がアルバイト先でしていたような毎日の売上集計は帰りの電車で済ますこともでき、営業終了ぎりぎりまで接客に集中することも可能になるわけだ。
個人経営の店舗で1店舗あたり3人が会計業務をするとすれば、日本国内で1000万人が、全世界では6億人がレジを使うことになると木戸氏は語る。ユビレジはそのニーズに安さで答えただけでなく、iPadのポテンシャルを引き出すことでモバイル性という付加価値まで創出した。スタートアップの成功事例としてもお手本となっている。
海外ではスマートフォンのイヤホンジャックに挿し込むサイコロ型のカードスキャナーで大ブレイクした米Squareが、ユビレジのようにiPadがレジになるサービスSquare Registerを展開している。しかし木戸氏は、「POSは、ノウハウの蓄積や顧客視点、細かな機能の作り込みなどが重要」とし、日本人のモノづくりやおもてなしの精神を発揮できる領域と考える。
確かに、現在のPOSレジにおいて世界シェアトップは日本のメーカー(東芝テック)だ。NECがiPadでのPOSレジに参入するという話もある。ユビレジが刺激剤となって日本メーカーがさらに切磋琢磨し、魅力的なサービスを世界に提供することにも期待したい。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))