世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。

バラに学ぶ「気候と経済」

 世界で最もバラが貿易されている国がどこかご存じですか? 実はオランダです。

 オランダで取引される切り花はバラが最も多く、全体の約3割を占めるといいます。下図は2013年のオランダにおけるバラ(切り花)の輸入と輸出を表したものです。

「アフリカのバラがオランダに集まる理由」気候と経済をつなげて考える

 この図から、オランダがバラ貿易の中継貿易地として機能しており、世界市場への流通の出荷元となっていることがわかります。バラを多く輸入するのはオランダを筆頭に、ドイツやフランス、イギリスなどの欧州諸国です。

 世界のバラ栽培の転換は、1970年代の二度のオイルショックでした。温室で使用する燃料費が高騰し、比較的寒冷な気候を示す欧州諸国でのバラ栽培はコストが高くつくようになりました。

 そこで一部の生産者は南アメリカや東アフリカへと産地を移しました。移転先の各国では経済発展や雇用の創出のために、受け入れを歓迎しました。

 さらに21世紀になると、南アメリカのエクアドルやコロンビア、東アフリカのケニアやエチオピアがバラ生産国として成長し、切り花などの花卉産業は重要な外貨獲得資源となってきました。

 ケニアやコロンビアといった国が選ばれた理由の1つに、「気候条件」がありました。オランダは比較的高緯度に位置(首都アムステルダムは北緯52.4度)するため、気温の年較差(最暖月と最寒月の平均気温の差)が比較的大きくなります(オランダのデビルトの気温の年較差は約15℃)。

 そのため、寒冷な10~2月は日照時間が短いため、温室などの人工施設を使用する必要があります。

 しかし、ケニアやコロンビアなどは赤道周辺に位置して気温の年較差が小さく、また標高が高いため「常春(とこはる)」を示し、日照時間が長く年中バラ栽培に適しています。加えて賃金水準が低く、低コスト生産が可能だという利点もありました。

 現在、世界のバラの輸出額は、エクアドル、ケニア、コロンビア、オランダ、エチオピアの順です。上位5ヵ国にオランダが登場することに違和感を覚えるほど、バラの生産・輸出は南アメリカや東アフリカが中心となっているのです。

(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)