世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。
スイスがしかけた「外貨戦争」
本日は、スイスがしかけた「外貨戦争」を見ていきましょう。ポイントは「外貨準備」です。外貨準備とは、直ちに利用可能な対外資産のことです。
例えば急激な為替相場の変動がみられた場合、それを抑制(為替介入)するための資金として使用されます。加えて、自国通貨の安定や外貨建て債務の返済が困難になったときにも使われます。日本では財務省と日本銀行が外貨準備を保有しています。
IMF統計によると、2019年の外貨準備高の上位10の国と地域は、多い順に中国、日本、スイス、サウジアラビア、台湾、ロシア、香港、インド、韓国、ブラジルです。2005年までは日本が世界最大でした。
2011年の東日本大震災をきっかけに燃料輸入が増大したことで、2015年まで日本は貿易赤字でした。とはいえ1981年から2010年まで30年連続で貿易黒字でしたので、外貨が積み上がっています。
日本が保有している外貨準備高のほとんどがアメリカ国債です。アメリカ合衆国は長らく財政赤字が続いており、そのアメリカ国債を日本が大量に保有しています。その日本を抜いて、世界最大の外貨準備高となったのが中国です。中国は2000年比でおよそ20倍に増加しました。
中国も日本と同様、輸出で稼いだ外貨とアメリカ国債を多く保有しています。昨今、中国は「世界の工場」となっており、1993年に一時的に貿易赤字となったものの、一貫して貿易黒字を記録しています。
外貨準備高の上位国で特筆すべきなのはスイスです。スイスは、2008年に450億米ドルだったのに対し、2019年には8040億米ドル、わずか10年ほどで実に17.8倍に膨れ上がりました。2009年にギリシャで政権交代がなされると、国家財政の粉飾決算が暴露されました。これをきっかけにユーロが下落、相対的にスイスフランの価値が高まりました。
自国通貨の価値が高まると、輸出不振になります。円・ドルで考えてみましょう。