小川 私が子どもに「考える力」をつけるために意識していることとしては、「プロセスに目を向ける」ということです。『オタク偉人伝』は偉人の偉業よりも、そこに至るプロセスにフォーカスをしました。「なぜ、こう考えたのか」「なぜ、こういう行動をとったのか」という部分に注目すると、より理解できるし共感できる気がします。

子どもに「考える力」をつける3大習慣加藤紀子(かとう・のりこ)
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が17万部を超える大きな話題となっている。
子どもに「考える力」をつける3大習慣小川晶子(おがわ・あきこ)
ブックライター、絵本講師。幼い頃から絵本が好きで、幼稚園生の頃の趣味は絵本作り。本と表現に関わる仕事をしたいと、2008年よりフリーのライターになる。『文章上達トレーニング45』(同文館出版)、『プロフィール作成術』(kindle)などの著作を持ち、『読書する人だけがたどりつける場所』(齋藤孝著、SB新書)などベストセラーの制作にも関わる。最新刊『すごい人ほどぶっとんでいた! オタク偉人伝』が注目を集めている。メディア出演、講演実績多数。2人の男の子の母親でもある。SNSでも日々発信中!
Twitter:@ogawa_samucopi
FB:www.facebook.com/akiko.ogawa1

 子どもに偉人の話をするときも、「ガリレオは地動説を広める本を書いたんだよ」と言うだけではなくて、「ガリレオはお父さんゆずりの議論好き。みんながアリストテレスの言ったことをただ信じているのはおかしいと思っていて~」などとプロセスを話すようにしています。これも1つの解釈でしかないのですが、「だから、こういう行動をとったんじゃないかな」と話すんです。

加藤 親子で話し合うのはいいですね。

不正解でも「根拠」を聞いてあげる

小川 『子育てベスト100』の中で「考えるきっかけをつくる」という項目がありますよね。そこに紹介されている「『なぜだろう?』とくりかえし問いながら分析を深めていく」というのがすごくいいなと思いました。

 国際バカロレア教育では「根拠があれば、それは1つの答えである」と考えるそうですね。大人からみるとトンチンカンな答えであっても、「なぜそう思ったの?」と聞いたときに根拠が出てくるのなら「そこに注目したんだね」「たしかにそう考えられるよね」と言ってあげたいと思います。

加藤 テストには正解がありますが、社会に出たら答えのない問題だらけですしね。学校のテストでバツをもらっていても、「どうして、こう思ったの?」と聞いて根拠が言えたなら、その部分をほめてあげたらいいと思います。

小川 子どもに「これはなんで?」「どうして?」と質問されたときも、「あなたはどう思う?」と聞くと、子どもなりの答えを何かしら言ってくれるんですよね。私にはなかった着眼点が出てきてハッとすることも多くて、いい方法だなと思っています。

その1:「自由に過ごせる時間」をつくる

小川 『子育てベスト100』は、考える力をつけるヒントが満載ですが、本書でも取り上げられている中で、あらためて加藤さんが考える「考える力をつける習慣ベスト3」をお聞きしてもいいですか?

加藤 まず、「子どもが自由に過ごせる時間をつくる」。

 子どもって意外と自由な時間が少ないんです。学校では時間割が決まっているし、放課後も習い事や塾があり、食事やお風呂など生活の時間もあります。

 親も子どもも忙しいから、子どもが何もせずにぼーっとしていたりすると「早く宿題やっちゃいなさい」「ヒマなら片付けを手伝ってよ」なんて言ってしまいがちではないでしょうか。でも、じつはぼんやりしている時間が大事だったりするんですね。

小川 本の中で、「ぼーっとする時間を確保する」という話があって興味深かったです。「いまから何時までは自由時間」と決めて自由に過ごさせると、だんだんやることがなくなってクリエイティブになれるという。

加藤 できるだけシンプルな環境の中で自由に過ごすのがいいでしょうね。でも、ゲームがやりたいならゲームでもいいと思います。何をやってもいい自由な時間があることで、創造的に考えることができるようになるんです。

その2:「好きなことにハマれる環境」をつくる

加藤 2つ目は、「好きなことにハマれる環境をつくる」。

 好きなことは、自分で試したり工夫したりできるし、アイデアもどんどん出てきますよね。「好きなことにハマれる環境をつくる」ためには、その子が何を好きだと思っているのか、どういうものに興味があるのかに気づくことが重要です。

小川 観察したり、話を聞いて子どもが好きなことを見つけ、それにハマれるように環境を整えてあげるという感じでしょうか?

加藤 そうです。そのとき「好きの解像度を上げる」のが大事だと思っています。

 たとえば「電車が好き」と言っても、電車のどこにハマっているのかは千差万別なんです。電車の見た目が好きで、写真をたくさん撮りたいのかもしれない。電車に乗って旅をするのが好きな子もいれば、路線図や時刻表が好きという子もいるでしょう。ゲームだって、ゲームのどこにハマっているのか? 人によってポイントが違うと思うんです。

小川 なるほど! 確かにそうです。プログラミング的な要素が好きな子もいれば、ゲームの世界観やストーリーが好きな子もいますよね。

その3:「成功・失敗体験」を積み重ねる

加藤 3つ目が「成功・失敗体験の積み重ね」です。

 体験がベースにあると、深く考えることができます。成功体験をさせてあげたいと思う人は多いでしょうが、失敗体験も大切です。

 失敗は「次はどうしたらいいか?」「改善するには?」と考えるチャンスでもありますよね。成功・失敗体験を積み重ねることで、よりよく考える力が身につくんです。

 それから、先日ある高校の先生が「子どもが自ら考えるには、感情が動くことが大事」とおっしゃっていました。

 たとえば、SDGs(持続可能な開発目標)について考えさせたいと思っても、頭で理解しているだけではなかなかその先まで考えることができません。

 でも、実際に体験したり、映像を見たりして「世界には、こんなに食べ物が足りないところがあるんだな。自分と同じくらいの子がこんなに大変な思いをしている……」と感情が動けば、自ら考えるようになります。
>>対談次回「『ゲーム終了!』と叱ってもなかなかやめない子に効く“3大スゴ技”」に続く