ポストコロナの新世界#6 グリーンニューディールPhoto:Bulgac, _human, egal/gettyimages

地球温暖化は資本主義経済の下での最大の課題だ。際限のない拡大で経済が地球環境を破壊し、人間の生命や社会の持続性を脅かし始めた中で、脱炭素化、グリーンによって資本主義は「壁」を克服し新たなフロンティアを見つけだすのか。それとも対応に失敗し、混乱と衰退の道をたどるのか。特集『ポストコロナの新世界』#6では、資本主義研究の第一人者、岩井克人・東大名誉教授/国際基督教大特別招聘教授に、「グリーン・ニューディール」をキーワードにコロナ後の資本主義の行方を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

コロナを機に再認識された
国家の役割の重要性

――コロナ禍で何を考えましたか。

岩井克人・東大名誉教授いわい・かつひと/1947年生まれ、69年東大経済学部卒、72年マサチューセッツ工科大で博士号取得、イエール大助教授、東大教授、経済学部長を歴任後、2010年退職。現在は国際基督教大特別招聘教授。専門は経済理論、日本経済論。著書に「不均衡動学の理論」「ヴェニスの商人の資本論」「貨幣論」「会社はこれからどうなるのか」「経済学の宇宙」など多数。

 資本主義が抱える問題を改めて考える機会になりました。とりわけ、国境の壁をなくして人や資本の動きをすべて自由にというグローバル経済化が進んできた中で、世界の多くの人がコロナ禍を機に国家(政府)の重要性を認識しました。

 国境の封鎖から始まってロックダウンや営業規制、ワクチンの供給や医療施設の確保など、世界中が国の単位での対応をしました。経済政策でも、市場重視の新自由主義が支配的だった中で、過去の政策のようになっていた巨額の政府支出と金融緩和を組み合わせた典型的なケインズ政策が実施されました。コロナは政府が前面に出る大きなきっかけになったわけです。

 この変化はコロナ後の経済社会の姿を占う鍵です。グローバル資本主義にも修正を迫るでしょう。 

 冷戦終焉後、米国型の自由放任の資本主義と、ドイツを中心にした欧州、日本などの政府の介入を許容し地域や組織を重視する資本主義が対峙しました。ですが、1990年代には米国型が支配的になり、2000年代からは独り勝ちの状況です。グローバル化やIT化、金融化の方向で言わばフロンティアが広げられ、ビジネスでも株主主権の経営が他を凌駕(りょうが)しました。

 しかしリーマンショックの前後から変調をきたし、格差が広がり環境問題が深刻になって、それまでも言われていた資本主義の本質的な問題が一気に浮かび上がってきた。そこに起きたのがコロナによるパンデミックですが、根は同じです。

 資本主義がどんどん拡大したことで、都市と自然の距離が近くなってウイルスが人間の世界に入ってきた。感染が、グローバル化の波に乗って急成長してきた中国の武漢で発生したというのも象徴的です。そしてそれがあっという間に世界に広がり、サプライチェーンの断絶や株価の世界同時急落に象徴されるように、グローバル資本主義の脆弱(ぜいじゃく)な面があらわになりました。