石炭火力、原子力、洋上風力、バーチャルパワープラント(VPP)……電力会社による巨額の設備投資と、それにひも付く長期の設備メンテナンスを長く請け負ってきた重電メーカーの電力部門は、グリーンバブルでどう変わるのか。特集『脱炭素 3000兆円の衝撃』(全12回)の♯番外編では、米ゼネラル・エレクトリックと洋上風力での提携観測も出る東芝で、長く電力関連ビジネスを率いてきた畠澤守代表執行役専務(東芝エネルギーシステムズ社長)に、乱気流にのみ込まれる電力業界での勝ち残り策について聞いた。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
石炭火力を続けたい気持ちはある
しかし時代変化への対応を優先させる
――主要国政府がコロナショックで被った経済的痛手を「環境関連ビジネス」を柱とする経済成長でカバーしようと動き出し、産業界にはさながら“グリーンバブル”が到来していますね。
今押し寄せているグリーンの潮流は、日本の電源構成と、それにひも付く電力関連産業の構造を一変させるインパクトがあると言って、間違いありません。
ここで求められる変化は、電力事業に関わる重電業界全体にとってはプラスだと思っています。というのも社内外の試算によると、(「2030年度に再生可能エネルギー比率22~24%」といった目標を達成するには)今後10年間で数十兆円、それも100兆円に近い方の数十兆円の再エネ関連投資が、国内だけで必要になるはずだからです。再エネ発電自体の投資が増えるのはもちろんのこと、それに伴って送電線の整備などの投資も必要になる。
東芝で言えば、発電機器や送電機器、エネルギーマネジメントシステムなど、さまざまな電力関連事業を展開していることが追い風となります。
――数十兆円の新規市場が立ち上がる一方で、石炭火力発電には逆風が吹き荒れています。東芝も昨秋、石炭火力建設工事からの撤退を発表しています。設計、調達、据え付け工事を丸ごと請け負う「EPC」の受注は新規ではもう行わない、ということですね。
すでに手掛けている案件や、受注済みの案件については最後まで事業を完遂します。また、(機器の交換などの)サービス事業における能力や技術力も維持していく考えです。今、日本で最大の発電量があるのは火力発電です。確かに再エネの拡大によって徐々に火力の発電量は減っていくことになるでしょうが、電力の安定性や経済性(発電コスト)などを考えれば、環境負荷を低減しつつ火力発電を一定程度維持することは必要ですから。
環境のことを意識しながら、技術やサービスのレベルを落とすことなく、事業をフェードアウトさせていく。(菅政権が掲げた「50年カーボンニュートラル〈炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること〉」など、主要国政府が打ち出した脱炭素目標を達成するまでの)30年をかけた長期のかじ取りになりますので、非常に難しい経営判断が求められることになります。
――電力の安定性や経済性のことを考えると、石炭火力とてそう簡単にはなくせない。ならば、残存者利益を得る方向で、逆に石炭火力の新設事業を続けるという選択肢はなかったのですか。
社員には思い入れもあります。石炭火力をいきなりドバっとやめるって書かれちゃうと、泣いちゃう人がいるくらいに。
――それでも石炭火力のEPCはやめると決めたのはなぜですか。