世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。
なぜ、鉄より銅のほうが高いのか?
本日は、鉄鉱石、銅鉱という資源に焦点を当てます。これらは地下から採掘されるため、国土面積の大きい国は埋蔵量・産出量が多い傾向にあります。
鉄鉱石の産出量(鉄含有量ベースの重量、2018年)はオーストラリア、ブラジル、中国、インド、ロシア、南アフリカ共和国が上位国です。総重量に対する鉄含有量の割合はだいたい60%強。世界における鉄鉱石の輸出量(2017年)はオーストラリア(53.2%)とブラジル(23.4%)の2ヵ国が中心です。
銅鉱の産出量(銅含有量ベースの重量、2015年)はチリ、中国、ペルー、アメリカ合衆国、コンゴ民主共和国が上位国です。特にチリは世界の約30%を産出しています。チリやアメリカ合衆国、ペルー、カナダ、メキシコなど環太平洋諸国での産出量が多くなっています。日本は半分近くをチリから輸入しており、以下ペルー、インドネシア、カナダ、オーストラリア、パプアニューギニアなどから輸入しています。
「どうのつるぎ」と「はがねのつるぎ」、高いのはどっち?
銅鉱の有名な産出地としては、コンゴ民主共和国からザンビアにかけて広がる銅鉱床地帯(カッパーベルト)と、パプアニューギニアのブーゲンヴィル島があげられます。カッパーベルトは、内陸に位置するため、沿岸部まで輸送するための鉄道が建設されました。
含有量を比較すると、銅鉱は鉄鉱石の約1.4%の産出量しかありませんので、銅鉱は鉄鉱石よりも価格が高い資源です。(53文字)
ゲーム「ドラゴンクエストシリーズ」では「どうのつるぎ」より「はがねのつるぎ」のほうが価格が高いのですが、現実世界ではあり得ないわけです。
争いを緩和させるヨーロッパ人の知恵
世界に存在する土地と資源には限りがあります。人口増加や経済発展にしたがって増えることはありません。だからこそ争奪戦が繰り広げられるのです。
かつてフランスとドイツが熾烈な争奪戦を繰り広げた地域があります。アルザス・ロレーヌ地方です。鉄鉱石や石炭が豊富に産出されるため、両国の係争地となりました。ドイツ語で「エルザス・ロートリンゲン」と呼ばれるこの地域は、普仏戦争(1870~1871年)を語る上で重要な場所です。
この普仏戦争中にドイツ帝国が樹立され、アルザス・ロレーヌ地方はドイツ帝国に割譲されます。後に、ドイツは同地方で産出された鉄鉱石や石炭を利用して産業革命を加速させました。
アルザス・ロレーヌ地方はライン川が北流するため、ここで産出された鉄鉱石はライン川水運を利用して搬出され、流域のルール工業地域では重工業が発達していきます。
現代に目を向けてみましょう。EUの前進であるEC(ヨーロッパ共同体)は、ECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体)、EEC(ヨーロッパ経済共同体)、EURATOM(ヨーロッパ原子力共同体)の3つが統合して成立しました。
このうちECSCは石炭と鉄鋼の共同市場を創設することで「紛争の火種」を取り除こうとしたわけです。政情の安定を図るために、ヨーロッパ人が生み出した知恵といえるのかもしれません。経済とは「土地と資源の奪い合い」なのですから。
(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)