まず、「コロナ禍、スタートアップ上場急増のなぜ—米国でブームの『SPAC』のカラクリ、警戒する声も」の8ページ目にある記述を引用しよう。「スポンサーは少額の自己資金でSPACを設立し、IPO時に新株を発行して初期投資家から資金を調達する。この時、報酬として20%の株式を確保することが通例となっている」とある。

 SPAC黎明期の2008年に書かれた「米国におけるSPACの活用を巡る議論」にも「IPOの結果、SPAC設立者の持ち分は20%程度となる」(p169)とある。

 例えば、数億円の手金でSPACを設立して200億円調達できた管理者は、200億円に見合うと「その時に」思われる企業とSPACを合併させたら、ざっと40億円相当の株式の保有者になることができる、ということだ。

 いわゆるヘッジファンドの典型的な成功報酬条件である「値上がり益の20%」は率直に言って暴利で、オプション価値の原理を知らず、計算もできない愚かな投資家が引っ掛かる。ヘッジファンドは、成功報酬のオプション価値を確保した後に、運用資産のボラティリティを自分で引き上げてオプション価値を釣り上げて利益を搾り取るのだ。一方のSPACは、買収さえできれば株式の形で「資産額の20%」が手に入るのだから、ヘッジファンド以上の暴利かもしれない。

 SPACの場合は「目利き」への報酬として、買収する株式の2割程度を設立者が手にするということのようだ。資産額の2割は、さすがにボッタクリではないか。

SPACを通じたベンチャー上場が
旧AO入試と似ている理由

 しかも、被買収企業に資金額に見合う価値があるかどうかは多くの人には分からない。もちろん、良いベンチャー企業を買収できるケースもあるだろう。しかし、実体の伴わない企業を「素晴らしいビジネスだ」と価値を喧伝して、一時的に時価総額を作って報酬の価値を実現しようとするインセンティブがSPACの管理者側には存在する。

 また、そもそも意図的に資金額に見合うビジネスを作ることも十分可能に思える。ビジネスの世界には、その程度の悪知恵が働く人間はたくさんいる。とても信用できたものではない。