もう20〜30年以上前から、金融機関の系列子会社を中心にベンチャー企業に出資することをビジネスとする「ベンチャーキャピタル」が多数存在する。しかし、彼らにとって有望な投資先は多くなかった。むしろ、実質的に資金調達にはそれほど困っていない「既に有望に見える」少数のベンチャー企業に、複数のベンチャーキャピタルが「出資させてほしい」と群がって競合するような状況がよく見られた。

 また、多くの大企業が潤沢な手元資金を持っており、有望な企業に出資する機会を探している。ベンチャー企業家にとって、資金調達の機会は豊富だ。

 もちろん、有望なビジネスを手掛けているベンチャー企業なのに必要な資金が供給されないことで成長し損なうケースはあるかもしれない。しかし、わが国の場合、斬新なビジネスを一から起業する有能な「人」の数こそが、ベンチャー界に不足しているように思う。

ベンチャービジネスのボトルネックは
資金ではなく「人」ではないか

 条件のいい会社にいったん就職してしまうと原則としてクビにならないという「魅力的で手堅い選択肢」を目の前にぶら下げられているので、わが国の秀才君たちは人生選択で「安全策」を採って、起業ではなく既存の企業や官庁での出世を志向する。就職市場で企業を選べる立場にある有能な学生にとっては、起業はリスクが大きくて期待リターンに見合わない。わが国のベンチャービジネスのボトルネックは「資金」ではなく「人」なのではないか。

 もちろん、起業すると大金持ちになれるかもしれない機会が増えると、有能な若者がもっと多く起業を目指すようになるかもしれない。

 しかし、そのための仕組みが、上場審査の価値を否定し、出資者から多額の手数料をボッタクり、買収対象企業の見せ方にごまかしのインセンティブを大いに含む「あの小汚いSPAC」だというのでは、何とも情けない。

 この問題の解決策は、金融よりも社会や企業のあり方にあるのではないだろうか。SPACの導入は筋悪に見える。