わたしたちの多くは何らかのストレスを抱えながら生きている。人間関係の悩みや職場でのプレッシャー、将来への不安など心の平穏を脅かす要因は数知れない。
そしていま、スマホの普及に伴う情報過多とコロナ禍によってストレスがさらに増加し、「いつも疲れている」「なんとなくダルい」「集中力が続かない」といった症状が出やすくなっている。
そのような症状の原因は、体の疲労ではなく「脳の疲れ」の可能性がある。脳の疲れの場合、単なる休息だけでは完全に解消することができないため、きちんとした「脳の休め方」を知っておかなければならない。
そこで読んでおきたいのが、2016年に発売されてたちまち話題を呼び、これまでにシリーズ累計28万部を突破しているベストセラー『世界のエリートがやっている 最高の休息法』だ。本書は、イェール大で学び、精神医療の最前線である米国で長年診療してきた精神科医・久賀谷亮氏が、「脳疲労」を解消できる「科学的に正しい」脳の休め方をストーリー形式でまとめた1冊だ。
今回は『世界のエリートがやっている 最高の休息法』より一部を抜粋・編集し、ぼーっと過ごして休んでいるつもりでも脳の疲れが取れない本質的な原因を紹介する。(構成/根本隼)

ぼーっと過ごして頭を休めているつもりでも、実は全く休息にならない驚きの理由Photo:Adobe Stock
【ストーリーのあらすじ】脳科学を学ぶために米イェール大学に渡ったナツ(小川夏帆)は、厳しい競争環境にさらされて挫折する。研究への復帰を目指し、伯父が営むベーグル店〈モーメント〉を手伝うことにするが、店のスタッフは疲れ切っていて職場の雰囲気は悪かった。ナツは店を立て直すべく、ヨーダにそっくりな外見のイェール大教授(ラルフ・グローブ)のもとを訪ね、「最高の休息法」マインドフルネスの極意を教わる。>>第1回から読む

マインドフルネスの効果は科学的に裏づけられつつある

 ヨーダ「なぜわしが、マインドフルネスは最高の休息法じゃと言いきるかと言えば、これがただの東洋式瞑想の焼き直しに留まらず、科学的に裏づけられたものに進化しつつあるからじゃ。ナツはフォローしとらんようじゃが、世界トップクラスのアカデミック・ジャーナルでも、マインドフルネスに関する研究論文は相当数あるぞ。

 心の疲労の典型に燃え尽き症候群というのがあるじゃろ?それまで1つの物事に没頭していた人が、心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなる状態じゃ。マインドフルネスは、こういう人たちにかなりの効き目を発揮することがわかっておる。

 たとえば、2009年にニューヨークの医師マイケル・クラスナーが発表した報告がある。70人の医師にマインドフルネスプログラムを施したところ、燃え尽きのサインである感情的疲労の症状が25%改善したという。

 一方で、彼らのマインドフルネス習熟度を測定すると、20%の上昇が見られた。彼らの感情的疲労の改善と、マインドフルネス習熟度とのあいだには統計的に優位な相関性が見られたため、マインドフルネスが疲労を和らげた可能性は高い、というわけじゃな。もはや、最先端の脳科学や精神医学が大真面目に研究する科学的休息法になりつつある。」

ぼーっとしている間も脳は働き続けている

 ヨーダ「脳科学を志しているナツなら、こっちのほうはお気に召すかもしれん。マインドフルネスは脳科学的なアプローチでもかなり研究が進んでおる。もはや『東洋の神秘』は過去の話じゃ。

 マインドフルネスが脳にポジティブな変化を起こすことはまず間違いない。たとえば、ここイェール大学にいたジャドソン・ブルワーが2011年に発表した論文じゃ。10年以上の瞑想経験がある人を対象に、マインドフルネス・セッションを行ったときの脳活動を測定したわけじゃが……ほれ、このとおり。どのセッションでも内側前頭前野後帯状皮質の活動が低下しとるのがわかるじゃろ?つまりは、そういうことじゃ」

 これらの部位は、記憶・感情などに加え、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)を司る部位でもある。DMNとは、意識的な活動をしていないときに働く脳のベースライン活動だ。いわば脳のアイドリング状態といったところだろうか。端的に言えば、脳というのは、つねに動いていようとする臓器なのだ。