関西将棋の系譜~次世代を見据え、400年の歴史を背負う

 谷川の前著『怒涛の関西将棋』(角川書店)によれば、目をかけてくれた芹沢博文九段(故人)は谷川に与えた助言について「私たちに返すのではなく、後輩たちに返していってほしい」と語ったという。そんな谷川には、弟子が一人だけいる。イケメン棋士として人気、宮崎出身の都成竜馬七段(31)である。その昔、小学生の都成が「弟子にしてほしい」と手紙を書いてきた。都成の誕生日は阪神・淡路大震災の起きた1月17日。谷川は「縁を感じた」という。「名前もいい。飛車が(敵陣に入り込んで)成ると竜。角が成ると馬ですから」。

『藤井聡太論』谷川浩司 著 講談社α新書『藤井聡太論 将棋の未来』谷川浩司 著 講談社α新書

 一方、谷川自身の師匠は同じ神戸市出身の若松政和八段(82)。若松の師、藤内金吾八段は、村田英雄や美空ひばりの名曲「王将」や映画で有名な明治・大正時代の“将棋の神様”こと坂田三吉(贈名人)の弟子。つまり谷川は坂田三吉の「ひ孫弟子」に当たる。谷川と同門には、陽気な大盤解説でファンを笑わせる兵庫県加古川市の強豪、井上慶太九段(57)がいる。谷川とは一緒に甲子園球場にタイガースの応援に行くという仲だ。

 谷川を育てた関西将棋会館(大阪市福島区)の4階の対局室の床の間には、木村義雄、大山康晴、中原誠、谷川浩司の4人の歴代永世名人が揮毫した、国宝級の掛け軸がある。会館は近い将来、大阪府高槻市に移転、新築される。「遅咲き」の愛弟子・都成の活躍はもちろん、「怒涛の関西将棋」の復権、ひいては400年の歴史がある将棋を次世代につなげるべく任務を背負い、谷川浩司は今日も現役として将棋盤に向き合う。

(ジャーナリスト 粟野仁雄)