コロナ禍は医療を巡る誤情報の多さを改めてあぶり出した。緊急事態に限らず、誤情報の犠牲になるのは、いつも患者本人だ。がん医療も例外ではない。
米ユタ大学の研究グループは、2018年1月~19年12月の間に主要なSNSに投稿された乳がん、前立腺がん、大腸がん、肺がんの記事について、「いいね!」等のエンゲージメント率を評価。おのおの上位50件を洗い出し、専門医が内容を精査した。対象のSNSはTwitter、Facebook、reddit、およびPinterestである。
全200件の情報元は、一般紙のオンライン版75件(37.5%)、オンライン媒体のみ83件(41.5%)、クラウドファンディングの情報が6件(3%)、医学情報誌34件(17%)で、個人のブログは2件(1%)だった。
精査の結果32.5%、つまり3本に1本は誤った情報であるとされた。具体的には(1)タイトルと内容がかみ合わない、(2)科学的根拠のレベルが低いか逆に過剰に持ち上げている、(3)全く根拠に乏しい“トンデモ医療”に関するものだった。
しかも、誤った記事の8割近くが患者に実害――治療拒否や受診の遅れによる悪化、科学的な根拠がない治療による健康被害、高額な治療費負担などの経済的被害を与えかねない代物だったのだ。
また、そうした“トンデモ”記事ほどエンゲージメント率(いいね率)が高く、Facebookでの発信が有意に多かった。SNSという「情報サイロ」に閉じ込められ、ぐるぐる円を描いている患者の姿が目に浮かぶ。
がん治療医でもある筆頭研究者は、患者が希望を求めて情報を探す気持ちに理解を示し、「SNSを無視するように説得することはできない」という。ただ、どんな情報も誤っている可能性があるのだから、オープンに主治医と話し合うよう勧めている。
SNS上のがん情報は、たとえ善意の発信だとしても、現実にがんと向き合うあなたに利益をもたらすとは限らない。「いいね!」の後ろにあなた自身が抱えている医療不信や将来への不安が隠れていないか一旦、指を止めてみよう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)