唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。
外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント8万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。
坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

【意外に知らない人体の常識】おならは何でできているのか?Photo: Adobe Stock

おならとげっぷの共通点

 おならはなぜ臭いのだろうか?

 それは、大腸の中にいる細菌が食べものを分解し、メルカプタンや硫化水素といった臭い気体を発生させるからである。硫化水素は「卵の腐ったような臭い」といわれ、温泉で漂っている臭いの原因でもある。細菌にとっては、こうした作用は自らが生きる上で必要な生命活動である。

 このような知識があると、「おならは腸の中で産生されるガスだ」と誤解しやすいが、そういうわけではない。おならの大半は、口から飲み込んだ空気である。

 私たちは、食事中に食べものと一緒に空気を飲み込んでいる。胃の中に入った空気は、一部が逆流して口から排出される。これを一般に「げっぷ」と呼ぶ。医学的には「噯気」と呼ばれる現象だ。

 一方、残った空気は食べたものと一緒に小腸へ流れていく。腸の蠕動運動によって下流に運ばれ、大腸内の臭いガスと一緒に肛門から排出される。これがおならである。

 急いでいるときに慌てて食べものを飲み込むと、空気も一緒に飲み込みやすい。飲み込む空気の量が多ければ、当然げっぷやおならの回数も増えやすい。

 とはいえ、空気を全く飲み込まずに何かを食べるのは不可能である。お腹のCT検査をして腸の中を見てみると、誰でも必ず空気が写る。その量は人によってさまざまで、たくさん空気が入っている人もいれば、少ない人もいる。

 だが、健康な人であれば、腸の中に全く空気が写らない、などということはありえない。どれほどゆっくり慎重に食べても、空気は必ず飲み込むものなのだ。

 空腹時にお腹が鳴る、という経験は誰しもあるだろう。だが、実は空腹時に限らず、常にお腹は「鳴って」いる。その証拠に、お腹に聴診器を当てると、健康な人なら誰でもグルグルという音を聞くことができる。

 私たちが「お腹が鳴った」と思うときは、「聴診器なしでも聞こえるくらい大きな音が鳴った」というだけである。

 お腹の音は、主に腸(小腸や大腸)が運動して内容物を運ぶときに出る。腸は常に運動しているが、これには二つのパターンがある。一つは空腹時の「空腹時収縮」、もう一つは食後の「食後期収縮」だ。

 腸管の収縮力は空腹時のほうが大きく、胃・十二指腸から始まった収縮が小腸の末端まで伝わっていく。腸管内に残った胃液や腸液を下流に送り出し、次の食事の準備をするためだ。空腹時にお腹の音が聞こえやすいのは、それが理由である。

 もちろん、空腹時以外にお腹の音が聞こえることもあるが、いつも腸が運動しているのだから不思議ではない。腸の運動が活発であることは、腸が健康である証拠だ。

 お腹の手術をするときは、お腹を切り開いて直接腸を見ることになる。このときは、腸の蠕動音が驚くほどよく聞こえる。普段はお腹の壁を隔てて聞いている音を、遮蔽物なしに聞くのだから当然だ。手術室にいる大勢に聞こえるくらい大きな音が響くこともある。

 一方、腸の動きが悪くなると、音が聞こえにくくなる。聴診器を当ててもなお、お腹の音がほとんど聞こえないときは、何らかの腸の病気を疑うことになる。

 聴診器といえば胸に当てるもの、というイメージが強いかもしれないが、私のように消化器を専門とする医師なら、聴診器をお腹に当てる機会のほうがむしろ多い。