存在しない債務をでっち上げてメールや郵便物、電話などで支払いを求める架空請求詐欺が一時流行し、一般的に無視を決め込めば問題ないと認知されてきたが、それを逆手に取って実際に裁判所に民事訴訟を起こし、法的に債権を得て預金口座を差し押さえる手口などが散発している。少額訴訟や相手に訴訟があったこと自体を気付かれないようにする「知らぬ間敗訴」など、手口はさまざま。裁判所は訴訟手続きの申請があれば事務的に処理するため、詐欺と見破るのは不可能で、内容証明などが届いたら確認するよう呼び掛けている。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
未払い賃金があるとして
相手に知られないように提訴
8月25日。大分県警は国から新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取ったとして、詐欺容疑で住所不定、職業不詳の男(38)を逮捕した。逮捕容疑は昨年8月、個人事業主を装って新型コロナの影響で大幅に減収したとする虚偽の確定申告書などを提出し、給付金100万円をだまし取った疑いだ。
全国紙デスクによると、実はこの男、九州の裁判所関係者や詐欺を担当する捜査員の間では知らない者はいないほどの有名人だった。複数の飲食店でアルバイトをしては短期間で辞め、未払い賃金があるとして経営者を相手に提訴を繰り返し、「勝訴」で経営者の口座を差し押さえていたのだ。
手口はこうだ。男は飲食店に未払い賃金があるとして各地の裁判所に提訴。ここがポイントだが、訴状には被告(今回の場合は被害者)の住所を記載する必要があるのに、無関係の場所を記載するのだ。