高齢者世帯は、世帯構成員の人数によって「単身世帯」、「2人以上世帯」に分類される。「2人以上世帯」には高齢者以外の人も含まれる。熊野氏の試算には、こうした高齢者以外の人たちの消費も含まれていたのだ。ちなみに、熊野氏の推計は、内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」の名目GDPをもとに試算されており、「家計調査報告」の数値からではない。

 熊野氏によれば、世帯ではなく世帯の構成員として試算すると、60歳以上の人の消費は77.1兆円になるとのこと。ただし、この試算は、「2人以上世帯」における65歳以上の構成員が、他の家族と同程度の消費支出をしているという仮定のもとで計算した推計値だ。

 かつ、この仮定はやや大胆なものなので、推計方法の客観性から見て「1人を基準に考えると77.1兆円になる」とは言いにくいとのことだ。ということは、60歳以上の人の消費はおそらく77.1兆円よりもさらに小さくなると考えられる。

 その一方で、私は「家計調査報告」から得られる前掲の60歳以上の1人当たりの消費額は、実態より小さいのではないかと感じている。実態より数値が小さくなると考える理由は、個人の支出というプライバシーに関する調査依頼の場合、回答者は一般に金額を過小申告する傾向があるからだ。

 数値の記入が自己申告なので、極論すれば、適当な数値で回答しても誰も文句は言わないし、チェックもできないのが実態だ。これはアンケート調査という手法の限界でもある。とはいえ、サンプル数が多いのと、毎年一度、何年も継続して実施しているので、ある程度の信憑性はあると言えよう。

ばらつきが大きい高齢者世帯の所得

 さらに、平成22年(2010年)の厚生労働省の「国民生活基礎調査」に高齢者世帯と全世帯の年間所得の分布の数値がある。ここで高齢者世帯とは世帯主が65歳以上の世帯を指している。これからわかることは、高齢者世帯の所得は「世帯によってかなりばらつきが大きい」ことだ。

 私がかねてから著書や講演などで主張しているとおり、高齢者世帯の消費形態は多種多様であり、十把一絡げでは語れない。先述のとおり、シニア消費を60歳以上の人の消費とすれば77兆円程度であり、巷で言われている100兆円を下回るが、それでも相当の規模であることは確かだ。

 しかし、だからといって、そうした規模の消費に費やされるお金が自動的に貴社の商品の消費に費やされるわけではない。貴社の商品を買ってもらうには、多様なシニア消費者のうち、いったい誰がターゲット顧客になるのかを注意深く考える必要があるのだ。

 企業担当者は、「シニア消費100兆円」といった大雑把な謳い文句に振り回されないよう、シニア市場の本質を見極めた周到な取り組みが大切なのだ。