シニア向けに商品・サービス提供を考えている人は、年代による消費支出の違いに加えて、こうした支出費目ごとの数値を頭に入れておくと役に立つ。

 たとえば、食費で見ると、60代では1日当たり2052円の出費となり、平均世帯人数が2.27なので、904円/日・人となる。同様に70代以上では、1日当たり1640円の出費となり、平均世帯人数が1.85なので、886円/日・人となる。こうした数値を知っておくと、シニアに売れそうな価格帯のイメージも湧きやすくなるだろう。

 もちろん、これまでの話は平均値ベースなので、消費者の実際の支出額と異なることは十分にあり得る。ただ、シニア消費100兆円という大雑把なイメージより、こうした数値をもとにするほうが、はるかに現実感のある商品戦略を構築できるはずだ。

シニアの資産の特徴は「ストック・リッチ、フロー・プア」

 前述のとおり、シニアの消費力が再び脚光を浴びている。団塊世代の最年長者である1947年生まれが、2012年に65歳に到達し、大量の退職者による新たな市場が生まれるとの期待が大きいからだ。また、2007年問題として騒がれた5年前と同様、購買力に劣る若年層よりも潜在可能性があると思われていることもある。

 しかし、企業の取り組みを見ていると、5年前の轍をまた踏むと思われる例が目につく。相変わらずシニア市場を「人数が多い・金持ち・時間持ちマーケット」と見なしていることが多いからだ。果たして、そうだろうか。

 わが国の総人口は減少傾向にあるものの、高齢者人口は今後も増え続けると予測されている。また、世帯主の年齢階級別の正味金融資産(貯蓄-負債)平均値を見ると、60代以上が全世代のなかで最も大きい。

さらに、世帯主の年齢階級別持家率でも60代以上が全世代のなかで最も大きい。つまり、資産ストックの面では、60代以上が最も保有していることがわかる。

 ところが、前掲の年間所得分布を見ると、高齢者世帯の平均値は307.9万円であり、全世帯の平均値549.6万円の56%と少ない。しかも、高齢者世帯の中央値は254万円であり、100万円から300万円の範囲で最も人数が多いことがわかる。つまり、所得フローの面では、60代以上は決して多くないのだ。