「シニア=60歳以上」で、市場を読み間違えるマーケティング担当者

 ところでシニア消費とは、いったい何を対象に、いくら消費されているのだろうか。先の「家計調査報告」平成22年に世帯主の年齢階級別の世帯当たり月間平均消費支出(総世帯)の数値がある。この数値の50~59歳の世帯とシニア世帯(60歳以上の世帯)のものを比較すると、費目別の支出金額が異なることがよくわかる。

 たとえば、世帯主の年齢階級が50~59歳の世帯の月間支出平均が29万9922円なのに対して、60~69歳の世帯では25万6985円、70歳以上の世帯では19万9936円と減っている。シニア世帯と一口に言っても、60歳代と70歳以上とでは月5万7049円も支出額が違う。

 これだけでも、「シニア世帯=60歳以上」などと一括りにしてしまうと、消費の実態を見誤ることがわかる。小売業などでは長い間、「ファミリー層=54歳以下」というセグメンテーションが一般的だったので、「シニア=55歳以上」などという括りで市場を分析する例が時々見られる。しかし、これだとさらに市場を見誤ってしまうので注意が必要だ。

 また、年代が上がるにつれてほとんどの費目で金額が減っている。特に50~59歳の世帯では月1万5151円かかっていた教育費が、60~69歳の世帯では915円、70歳以上の世帯では419円と激減している。これは、大半の世帯で子育てが終了したからだ。

 食費が減っているのは、家族の数が減ったことと、食事の量自体が減ったことが理由だ。また、被服・履物費が減っているのは、家族の数の減少に加えて、世帯主本人も退職後はスーツやシャツ、ネクタイ、革靴などが必要なくなり、あまり買わなくなったためだ。

 金額的にあまり変わっていないのは、住居費、光熱・水道費、家具・家事用品である。これらは同じ家に住み続けていれば、年代にあまり影響しないからだ。一方、面白いのは、年代が上がるにしたがって、教養・娯楽費の割合はむしろ微増していることだ。定年退職後には自由時間が増え、仕事以外の趣味にお金をかけるからだろう。

 他方、金額でも割合でも増えているのは保健医療費である。50~59歳の世帯では支出全体の3・5%だったのが、70歳以上の世帯では6・0%にまで増えている。加齢による身体機能の変化に伴って健康維持や医療のための支出が増える傾向がうかがえる。