1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じでしょうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』が9月15日にダイヤモンド社から発売されました。「失われた30年」そして「コロナ自粛」で閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのでしょうか? 新しい時代を切り開く創造や革新のヒントはどこにあるのか? 同書の発刊を記念してそのエッセンスをお届けします。これからの時代を見通すヒント満載の本連載に、ぜひおつきあいください。

行き過ぎた工業化への対抗運動<br />ヨーロッパで注目される<br />「新しいルネッサンス」とはPhoto: Adobe Stock

工芸的な手仕事の復権=「新しいルネッサンス」

「機械が日々私たちの仕事を奪い、人工知能が私たちの生活を一変させている世界。そんな世界で本当に重要なのは、特別で人間に固有の技能、そしてその技能には調和と美を生み出すポテンシャルがあるのだということを、認識することです」
─HOMO FABER Exhibition Guide, Fondazione Giorgio Cini, Venice, 2018, p.9より拙訳

 これは南アフリカ出身の実業家で、リシュモングループの会長であるヨハン・ルパート氏の言葉です。

 リシュモンはカルティエ、ヴァンクリーフ&アーペル、モンブランなどを筆頭に、ジュエリー、時計、ファッションなどの数々のラグジュアリーブランドを束ねる世界的な企業グループです。LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンに次ぐ、世界第二位の規模を誇っています。

 世界的な企業グループの創業者であるルパート氏は、コンピュータやAIの時代になっても、「手で物をつくる」ことこそ人間の創造性の原点であると言っています。

 時代を超えて続く私たちの創造性の基盤は「工芸」であると考え、それが「調和と美を生み出す、特別で人間に固有の技能」だというのです。

 ルパート氏は二〇一六年に、創造性と工芸性のための「ミケランジェロ財団」を創設しました。

 このミケランジェロ財団がカタログで打ち出しているのが、「新しいルネサンス」という言葉です。工芸的な手仕事の復権を「新しいルネサンス」と位置づけ、二〇一八年からヴェネチアで、「Homo Faber(ホモ・ファーベル)」という工芸技術の一大展示会を始めました。「ホモ・ファーベル」とは、ラテン語でヒトの進化の原点である「(道具をもって)作る人」の意味です。