高宮慎一氏(以下、高宮) おっしゃる通りです。僕も起業家やスタートアップから相談や資金調達の話を頻繁に受けます。複数の集合の範囲を視覚的に図式化した「ベン図的な発想」でスタートアップを表すと、良い事業が最も大きい集合だとすると、その中にある小さい集合体がスタートアップだと思っています。

 スタートアップを僕の解釈で言うと「急成長および規模化を宿命付けられたスモールビジネス」だと思っています。

尾原 そうですね。

高宮 それでは、「なぜ急成長を宿命付けられてしまう」のかというと、起業家が自ら設定した「ミッション」や「ビジョン」の壁が高過ぎて、「スピードを上げないと届かない」ことが一つです。

 もう一つは、「競争環境」を考えたときに、急スピードで行かないと、再三議論しているインターネットでイネーブルされた世界だと大きいプレーヤーがより規模化していく「ネットワーク効果」が働いてしまうので、「ユニコーン・オア・ダイ」の世界になってしまうからです。

尾原 結局、お金のブン殴り合いの競争の中で、やらなければ他の企業にのみ込まれるみたいなことですね。

高宮 先ほどのインターネット的な構造の中でいうと、ちょっとでもリーダーになった途端に、ベターな資金調達ができて、ベターな資金調達をすると、さらに差をつけられて……という「ウイニングサイクル(勝利の循環)」に入るので、1周目から先行で勝つことを宿命付けられてしまうという感じです。

 一方で、「急成長」や「規模化」をしなくても、いいビジネスはいくらでもあります。

尾原 そうですね。

高宮 例えば、1000年以上の間、続いている神社や仏閣の大工の「金剛組」みたいな会社は間違いなく「良い会社」ですよね。日本の古来の「大工の技術」を伝承して、それを将来に受け継いでいます。なおかつ、過去の遺産をしっかり修復しています。これはとてもいいビジネスなんですね。

尾原 実は「100年以上の間、続いている会社が一番多い国は日本だ」と言われたりしていますね。また、「新しいものは飽きられるかもしれないけど、既に古いものは飽きられない」みたいな話もあったりしますよね。

高宮 スタートアップブームの中で、「資金調達10億円しました! かっこいい! すごい!」みたいな話になりがちです。けれども、その軸だけが、「自分のやっていることの素晴らしさ」や「自分の幸せの価値評価」の軸ではないと思っています。

「自分なりの軸」をしっかり設定して、「世の中の一般論の軸」に乗らないこと自体もイネーブルしたのが、先ほどの5つの大きな流れだと思うんですよね。

 つまり、「自分の軸を設定しても生活とビジネスを両立できる」という感じになっているので、必ずしも「スタートアップの急成長・規模化」を追求しなくてもいいというのは、本当にその通りだと思います。

 もちろん、僕は「ビジネスモデルオタク・事業オタク」なのでスタートアップ以外も好きです。一方で、VCの立場で考えると、どうしてもスタートアップを対象にしなくてはいけません。プライベートでは、友達の良い事業の相談に乗って、応援したりもしています。この話は、「偏差値的な一神教・急成長・規模化」のような……。

尾原 「成長こそがすべて!」というわけでは、ないということですね。

高宮 そうですね。