最初は突然変異を選んだ

――人類にとって都合がいいように品種を改良していくなかで、化学の知識や技術が十分でない時代には、どうやって改良を進めてきたんでしょうか。

左巻 最初は、突然変異したものを選んだことでしょう。メインは、とにかく性質の違うものをかけ合わせて、すぐれた性質が出るのを見つけることを繰り返しました。

 かけ合わせで、たまたま実が大きいものができたら、それをまた栽培していく。同じように、実が落ちにくいものが出てきたら、それを少しずつ増やしていく。

【穀物の世界史】世界の人口の半分が主食…「世界3大穀物」の第1位は?

 より美味しいもの、より病気に強いもの、より寒さに強いもの、より強風でも倒れにくいものなどを選んでいくのです。そんなことの繰り返しです。

 だから「人類の都合のいいように改良する」と一言で言っても、何百年、何千年という時間のなかで、かけ合わせで得たすぐれた性質のものを選んでいくということを繰り返して、現在のような品種に近づけてきたわけです。

――気の遠くなるような時間ですね。

左巻 本当にそうですよ。でも、その先でさらに科学が進歩し、いろんな技術が開発されたりしてきたわけです。

 現代で言えば、かけ合わせと偶然の突然変異頼みだった世界に、突然変異を起こす技術やバイオテクノロジーの技術が入ってきましたよね。それで、新しい技術も使うようになりました。

 例えば、種子に放射線を当てて突然変異を人為的に誘発する技術です。また、遺伝子を操作するゲノム編集技術も用いられるようになりました。

 それでも品種改良の基本は今も変わらずかけ合わせなんですよ。

「食」というのは、私たちの生活におけるもっとも身近なものですし、「食」は歴史を作っていく根幹でもあるんですが、そこには化学の進歩が大きな影響を及ぼしています。

世界史は化学でできている』では米の話だけでなく「ジャガイモはどうやって世界中で植えられるようになったのか」「野生のイノシシはどのようにして家畜の豚となり得たのか」など「食の歴史と化学」に関する話もたくさん取り上げています。

【穀物の世界史】世界の人口の半分が主食…「世界3大穀物」の第1位は?左巻健男(さまき・たけお)
東京大学非常勤講師
元法政大学生命科学部環境応用化学科教授。『理科の探検(RikaTan)』編集長。専門は理科教育、科学コミュニケーション。1949年生まれ。千葉大学教育学部理科専攻(物理化学研究室)を卒業後、東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻(物理化学講座)を修了。中学校理科教科書(新しい科学)編集委員・執筆者。大学で教鞭を執りつつ、精力的に理科教室や講演会の講師を務める。おもな著書に、『面白くて眠れなくなる化学』(PHP)、『よくわかる元素図鑑』(田中陵二氏との共著、PHP)、『新しい高校化学の教科書』(講談社ブルーバックス)、『世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)などがある。

【「だから、この本」大好評連載】
第1回 マリー・アントワネットも悩まされた…汚物まみれだったベルサイユ宮殿の真実
第2回 【アルコールの世界史】古代エジプト、ピラミッド建設の労働者の超意外な給料とは?

【穀物の世界史】世界の人口の半分が主食…「世界3大穀物」の第1位は?