【穀物の世界史】世界の人口の半分が主食…「世界3大穀物」の第1位は?

「こんなに楽しい化学の本は初めて!」という感想が続々寄せられている話題の一冊『世界史は化学でできている』。朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞夕刊、読売新聞夕刊でも次々と紹介され、発売たちまち8万部を突破。『Newton9月号 特集 科学名著図鑑』では「科学の名著100冊」にも選出されたサイエンスエンターテインメントだ。
「世界史を化学の目線で紐解く」となぜこんなにもおもしろいのか。 今回は、私たちの食生活になくてはならない「お米の話」。しかし、野生の稲では決して主食になり得なかった。そんな食文化と品種改良に関する話を、著者の左巻健男先生に詳しく聞いてみました。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

稲の生存戦略

――『世界史は化学でできている』では、食文化の歴史を化学の視点から紐解いているエピソードもたくさん紹介されています。私たちの主食である米の話も非常におもしろいですよね。

左巻健男(以下、左巻) たしかに、私たちが米を主食にするようになった話はとても興味深いです。じつは世界的に見て、人口比率で言うと米を主食にしている人は圧倒的に多いんですよ。世界の約半分の人は米を主食にしています。

 ちなみにその次が小麦、トウモロコシと続き、この3つが世界三大穀物と呼ばれ、それに続くのがジャガイモの順です。米はイネ属イネ科イネ目の植物の実(中の種)で、私たちは稲の実の皮をむいて種を食べているわけです。

 ただし、米の祖先の自然界にもともとあった野生の稲では、とても主食になんてなり得なかったことでしょう。

――それはどうしてですか?

左巻 まず、祖先の野生の稲は、私たちが普段食べている稲とは比べ物にならないくらい実が小さかったでしょう。

 私たちは普段目にしている米粒でも小さいと感じるかもしれませんが、今ある野生の稲たちの実はそんなものではありません。ずっと小さいのです。きっと稲の祖先も小さかったことでしょう。

 さらに、野生の稲はバラバラに実を作り、熟したらどんどん落ちてしまいます。実がなる時期がまちまちで、すぐに実が落ちていくようなものを集めて主食にすることなんてできませんよね。

【穀物の世界史】世界の人口の半分が主食…「世界3大穀物」の第1位は?

――たしかに、それではまとまった量を一気に収穫できないですもんね。

左巻 そうなんですよ。ただ植物にしてみれば、一度に熟して実を作るより、時期をずらして実を作って、バラバラに地面に落ちた方が他の動物に食べられたり、腐ってしまうリスクを分散させられるので、種の生存戦略としては有利ですよね。

 植物としては当然の戦略なのですが、それを食べる我々からすると、小さく、目立たない実を、バラバラに時期をずらして実らせて、それをすぐに地面に落としてしまうなんて、非常に困るわけです。

 それともう一つ、野生の稲には主食に向かない決定的な理由があります。

――それはなんですか?

左巻 品質が安定しない点です。じつは野生の稲は、花が開いて自分の花粉がめしべについても、受精しない性質を持っています。

 自分の花粉ではダメで、他の稲の花粉がめしべにつくと、そこで初めて受精する「他家受粉」という性質を持っているんです。

――それはユニークですね。どうしてそんな性質になっているんですか?

左巻 他の稲でないと受粉しないということは、常に雑種になるということです。そのほうがさまざまな性質の実ができるので、環境の変化が起こったり、いろんな病気や害虫の被害に遭ったりしても全部が死に絶えることを避けられます。どれかが生き残るための大事な生存戦略なんです。

――なるほど。そうやって説明してもらうと、とても納得がいきますね。

左巻 ただし、米を主食にしようとする我々にとって、それは都合が悪いんです。なにしろ品質が安定しませんから。

 そこで人類は長い歴史のなかで、野生の稲を手なずけてきたんです。一粒一粒の実が大きくて、一斉に実を結んで、なかなか落ちない。そして、品質も安定している。

 そんな稲を栽培することができれば、一度にたくさん収穫することができますし、主食として十分な量を確保することができます。

 そうやって、野生の稲は人類の食料として育てやすくなってはいくんですが、当然、生存戦略にはそぐわないので、同質の稲ばかりになったり、害虫などに弱くなってしまうという弊害もあるわけです。