野田佳彦首相が、国会の党首討論で衆院解散の決断を明らかにする前代未聞の手を打った。衆院総選挙の日程は12月4日公示、16日投開票に正式決定された。

 野田首相の決断については、「政局」の観点からさまざまな議論が展開されている。だが、この連載は「政局論」と一線を画したい。前回、「政治生命」を賭けた消費増税の実現によって、政治哲学である「一内閣一仕事」を達成した野田首相は、政権の延命に拘っておらず、特例公債法案の審議拒否への世論の反発に悩む自民党・公明党を揺さぶり、よりよいタイミングで解散を狙っていると論じた(第47回を参照のこと)。

「政局論」では、野田首相が解散に追い込まれたと主張するものが多い。だが「政策」に焦点を当てると、全く別の見方が可能になる。むしろ、野田首相は自民党・公明党との解散時期を巡る駆け引きを、終始自分のペースで進めてきた。そして、首相は党首討論で「定数削減を確約すれば、16日に衆院を解散してもいい」と安倍晋三自民党総裁に迫り、「詰めの一手」を打ったといえる。

野田首相は「社会保障と税の一体改革」の
衆院選争点化の回避に成功した

 野田首相は、衆院解散に「一票の格差是正」「特例公債法の成立」「社会保障制度改革国民会議メンバーの人選」の3つの条件を提示した。「政局論」では、このうち、「赤字国債発行法案」「一票の格差是正」に焦点が当たりがちだが、「政策論」では「国民会議メンバーの人選」も重要である。

 総選挙前に国民会議の人選が決まれば、民主・自民・公明の三党は、社会保障制度改革を衆院選の争点から外すことになる。総選挙の結果で、改革の方向性が「政治的」に決められることもなくなる。そして、社会保障制度改革は、国民会議を舞台に専門家によって議論されることになるからだ。

 この連載では、将来の社会保障制度のあり方を、「政局」で拙速に決めるべきではないと主張してきた。三党合意によって国民会議の設置が決まったことは、「問題先送り」と批判されるが、制度改革を専門家が1年間かけて議論する場が設けられたことは、高く評価すべきだ(第38回を参照のこと)。なぜなら、民主党・自民党のどちらの社会保障改革案も、既に一度「政治的」敗北を喫し、そのままでは国民の支持を得られないものだからだ。