美意識の基準をつくるためには、
生身で触れて「感じる」ことを怠ってはいけない

自分の中の美意識を磨くために、誰でもできるシンプルなことPhoto: Adobe Stock

 ネットの時代になり、私たちは家にいながら、どんな情報でも収集できるようになりました。だから自分で歩いて情報を集めることを怠り、検索によって簡単な知識を得るだけで、つい「知った気」になっていることが多くなってはいないでしょうか。

 自分の中に美意識の基準をつくるためには、生身で触れて「感じる」ことを怠ってはいけません

 自分にとって未知の世界に生で触れようとすれば、初めての場所や、初めての経験にトライすることが多くなるでしょう。これは初めて海外旅行をしたり、新しい習い事をするときと同じで、それなりの勇気を必要とするものです。

 ただ、飛び込むことで拡張できる自分の価値観は、計りしれないものだと思います。

 生で見て幻滅した、食べてみてガッカリした、思ったよりもたいしたことはなかった……。それならそれでいいのです。自分自身の持っている知識を経験によって修正したということですから、それも自分自身の成長につながります。

 だから遠くへでも積極的に出かけ、面倒に感じることでも敢えて挑戦し、リアルな体験を得て、感性を大きく開いていきましょう。家と職場の往復だけのマンネリな生活を繰り返していては、美意識も磨かれないでしょうし、自分の価値観を広げることもできません。

 自分を奮い立たせて、意識して未体験のものやことに触れてみようとすることがとても重要なのです。

 固定観念を壊し続けながら、妄想によってビジョンを広げ、自身の美意識を鍛え、育てていく。美を追求する営みである工芸には、これからのビジネス、そしてこれからの時代を考えるためのエッセンスが詰まっています。

 次回からはその軸となる三つの視点を、さらに踏み込んでご紹介します。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。