新型コロナの緊急事態宣言は解除されたが、今後、企業のテレワークは定着していくのだろうか。そのキモとなるのが「テレワーク下のマネジメント」の問題だ。これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その課題さえクリアになれば、テレワークは、マネージャ―にとっても部下にとっても生産性のあがる働き方として、定着していくに違いない。パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、テレワーク下のマネジメントの課題の具体例を提示し、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏がその解決策を執筆した本が『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。
決定にかかわれないことがモチベーションの低下を招く
同じ部署で、出社組とテレワーク組が混在する働き方を「まだらテレワーク」と呼んでいます。「まだらテレワーク」は「全員テレワーク」よりもマネジメントが難しくなるということはかねてよりお伝えしてきました。
まだらテレワークが難しいのは、リアルでのコミュニケーションのほうが慣れていて容易なので、無意識のうちに、テレワークの人よりも対面している人とのコミュニケーションを優先してしまいがちなことです。
実際、まだらテレワーク下で少数派テレワーカーとして仕事をしてきた私の知人は、「決まったことしか伝わってこないので、決定までのプロセスがわからない」「知らないうちに、物事が決まったものとして話が進んでいる」ということを訴えていました。出社組の人は、特に悪気なく気軽にした決定なのかもしれませんが、これでは、テレワーカーが疎外感を抱くだけでなく、仕事に対するモチベーションも下がってしまいます。
モチベーションを高め、維持していくために重要なのは「仕事に意義を感じるかどうか、自分が成長できると感じられるかどうか、自律性があるかどうか(物事を自分で決める余地があるかどうか)」という3点です。とりわけ自律性は重要ですから、テレワーカーが決定のプロセスから疎外されていると感じていないか、マネージャーは必ず気を配ってください。
本書の第1章では「物事はその場にいるみんなが合意することによって現実になる」という社会構成主義のお話をしました。すべてのメンバーが同じ場で意志決定のプロセスに関わることは、心理的安全性を確保するためにも必要です。そのための環境やプロセスを整えることは急務です。
「まだらウェブ会議」より「全員ウェブ会議」に
たとえば、リアル参加とオンライン参加を両方OKとするような会議も要注意です。テレワーカーもオンラインでリアル会議に参加しているからいいと思いがちですが、意外にリアルの会議室の情報が共有されていないことがあります。
私自身、かつて出張先からオンラインで会議に参加したときに、自分だけがオンライン、自分以外のメンバーはすべて社内の会議室にいる、という状況になったことがあります。
ウェブ会議ツールに映っているのは自分の顔だけで、メンバーひとりひとりの顔はきちんと見えません。現場でどのような話し合いがなされているのか、音声も明瞭には聞き取れません。誰かが持ってきた紙の資料を見ているようなのですが、共有されないので、こちらからは見えません。会議室にいるメンバーだけで話が進んでいき、結論を出す段階になって「どうですか?」と聞かれたのですが、どのような話し合いがなされたのかがよくわからないので、答えようがありませんでした。これでは疎外感を感じるのも当然でしょう。
こうしたまだらウェブ会議では、テレワーカーだけが“見えない、聞こえない、共有されない”という状況を極力、解消しなければなりません。どれかひとつでも欠けてしまうと、話の流れが見えなくなり、ストレスや疎外感を強く感じることになるからです。
そうした意味では、一部の人がオンライン参加、一部の人が会議室参加、という状態は避ける方が無難です。1人でもオンラインでの参加者がいるのであれば、全員がオンライン参加、つまりそれぞれが自分のPCから会議に参加する方がうまくいくことは間違いありません。
本書では、テレワークのマネジメントに必須のICTを使ったコミュニケーションの方法についても詳しくお話ししています。リアルでのコミュニケーションとは違った方法論が必要です。どうぞ、ご参考にしてください。