岸田文雄首相と立憲民主党・枝野幸男氏立憲民主党の枝野幸男代表(右手前)の代表質問を聞く岸田文雄首相(中央)。岸田氏が自民党総裁選で掲げた金融所得課税の強化について、枝野氏は「テレビで事実上否定してしまった」と指摘した Photo:JIJI

岸田文雄首相が、自民党総裁選の際に看板政策の一つに掲げた金融所得課税の強化について、早くも当面先送りすると方針を後退させた。金融所得課税の税率引き上げは「ダメな理由」が二つあり、その判断自体は適切だ。しかし、一国の首相の言葉がこんなに軽いことについては問題視せざるを得ない。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)

「言葉の軽い政治家」岸田新首相
金融所得課税の見直しを当面先送り

 こんなに言葉の軽い政治家なのだとは思わなかった。先日首相に就任した自由民主党総裁の岸田文雄氏のことだ。岸田氏は、先般の自民党総裁選で「分配」を強調する「新しい資本主義」を掲げ、金融所得課税の見直し(税率引き上げの検討)に言及した。

 金融所得課税の見直しは、岸田氏の看板政策の一つだったはずなのだが、衆議院での代表質問を翌日に控えた10月10日のテレビ番組で、「当面は金融所得課税に触ることは考えていない」と早々に方針を後退させた。

 この問題は何重にも「こじれて」いて、金融所得課税見直しの先送り自体は適切なのだが、さすがに一国の首相である政治家の言葉がこんなに軽いのでは、それ自体について少々問題にせざるを得ない。

 おそらく首相本人と首相に近い人たちは、岸田氏が総裁に選出されて以来大きく下げていた株価を気にしたのだろう(日経平均株価で約2000円下落)。あるいは、岸田氏の総裁選出の後ろ盾となった、自民党の実質的なオーナーともいえる人々に叱られたのだろうか。いかにもありそうな話だが、だとすると、社内基盤と実力のない「雇われ社長」のような人がわが国の首相だということになる。