京都の伝統工芸・西陣織のテキスタイルがディオール、シャネル、エルメス、カルティエなど世界の一流ブランドの内装などに使われているのをご存じでしょうか。日本の伝統工芸の殻を破り、いち早く海外マーケット開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている異色経営者、細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)が出版されました。対談形式でお届けしている本連載の特別編。前回に続き、お相手は東京藝術大学名誉教授の秋元雅史氏です。細尾さんと秋元さんの2人が、美意識と現代アートの関係について語り尽くします。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ(構成/北野 啓太郎、撮影/石郷友仁)。
美意識を鍛錬する方法とは
秋元雄史(以下、秋元) 前回「ビジネスで抜け目なく、効率的にやっていくと、だんだん人間じゃなくなっちゃうみたいなところがあるから、オンとオフをきちんと持って、ある種の人間的な温かさとか、人と人が触れ合ってやりとりする、打算も何もなく楽しむとか、そういうことが必要」といった話をしたけど、やっぱり人間的な深みというか、年齢を刻んでいくうちに、ある種の精神的な豊かさみたいなものも必要になってくるよね。
細尾真孝(以下、細尾) そうですね。そうすることで、美意識も持ててきますよね。つまり、自分自身に向き合っていくことが必要ということですかね。自分って本当は何が美しいと思っているのか。それは突き詰めると、自分はどう生きたいのかって話になってくる。
随筆家の白洲正子さんが、「骨董を買っても、やはり使わないと意味がない」ということをおっしゃっています。実際にものと向き合うことで、自分の美意識を鍛錬して行くというか。
秋元 実際に使ってみないとわからないしね。
細尾 アートだって、実際に手元に置いてみないと。
秋元 飾ってみたらいいと思うね。
細尾 そうやって自分で美に投資し、自分のものにしていく。そういうところは重要だと思います。
秋元 そうね。遊びなんだと思うけど、でもそういう遊びの時間がないと、やっぱりやせ細っちゃうからさ。
細尾 今回、拙著『日本の美意識で世界初に挑む』の中でも、どうやって美意識を磨けるかについて書きました。実際に美しいものを使う、ものと真摯に向き合うことだと。
秋元 書いてあったね。
細尾 決してそれが絶対的な答えではないと思うんですけども。でもやっぱりいいものに触れてみる、使ってみる、自分のものにしてみる。こうした姿勢は大事だと思います。
秋元 そうだね。
細尾 あとは「型」ですね。型は先人の美意識が体系化されたものなので、その型に倣う。もうおそらく生きてない先人の美意識を身体化していくことで、自分の中で美意識を育てることができると考えています。