10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。
今回は本書の発売を記念し、特別インタビューを実施。加藤氏に、「左利きには天才が多い」と言われる理由について聞きました。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由

ダ・ヴィンチ、ピカソも左利き!?
偉人に左利きが多い理由とは

──38代以降、アメリカ大統領の8人中5人が左利きなんですよね。「東大生の約20%が左利き」という話も耳にしました。左利きの割合が全体のおよそ10%程度であることを考えると、やはり偶然の一致ではないように思えます。

加藤俊徳先生(以下、加藤):「左利きには天才が多い」というのは、聞いたことがある人も多いかもしれませんね。アリストテレス、アインシュタイン、エジソン、ダーウィンなどの偉人たちも、じつは左利きだったと言われています。モーツァルト、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソなどの世界的に有名な芸術家にも、左利きは多かったようですね。

「たまたまでしょ」と言う人もいますが、私は偶然ではないと思っています。脳内科医として1万人以上の脳を見てきましたが、やはり左利きの脳と右利きの脳には大きな違いがあり、左利きの人だけが持つすばらしい才能があるんだなと、確信を持つことができたからです。

──「天才が多い」と言われるのは、なぜだと思いますか。

加藤:まず前提として「天才」とは何か、について考えてみたいと思います。

 天才とはつまり、人よりも大きく秀でた才能がある、ということですよね。となると、「みんながこうだと言っているから、これが正解でしょ」と周りに同調するような考え方では、天才は生まれにくいということ。人とは違う考え方を持っていたり、大多数の人が気がつかないことにも目を向けることができたりするからこそ、新たなアイデアを生み出すことができる

──たしかに、哲学者にしろ、発明家や芸術家にしろ、「まさかそんなことを思いつくなんて!」という、人とは違った視点を持っていますよね。

加藤:そうなんです。マジョリティと同じことばかりしていては、天才にはなれません。では、この前提をもとに、「なぜ、左利きには天才が多いのか」という問いについて掘り下げてみましょうか。すると、左利きの脳の使い方には、大きな二つの特徴があることがわかってきます。

バランスのよい脳の使い方をしている
日常的に「ミラードローイング」を行い、脳を発達させている

 これが、左利きのみが持つ強みです。ほとんどの人はそれに気が付いていないんですけどね。

右利き用の社会では、
工夫しないとサバイバルできない

──興味深いです。一つずつお聞きできればと思いますが、まずは「①バランスのよい脳の使い方をしている」とは、どういうことでしょうか。

加藤:まず、利き手が異なると脳の使い方が変わるんです。左利きは右脳を、右利きは左脳を主に発達させています。右脳と左脳では役割が違う、というのはご存じの方も多いのではないでしょうか。右脳は非言語である画像や空間の認識を担当しており、左脳は主に言語情報の処理に関わっていることが明らかになっています

──「右脳を鍛える方法」なども、一時期流行りましたよね。右脳と左脳、どちらもバランスよく発達させられたらいいなあ、と私も思います。

加藤:その訓練を日常生活でできているのが左利きなんですよ。基本的に、世の中のサービスや仕組みは、マジョリティである右利き用に作られていますよね。ICカードをタッチさせる改札も右側、はさみも一般的な文具店で売られているのはほとんど右利き用、横書きのノートに文字を書くときも、左から右に手を動かさなければなりません。レストランで食事すると、右利きの人と並んで肘がぶつかってしまうことも多々あります。

 そういった右利き用の社会で生き抜くためには、左利きは必然的に、使いにくい右手を使うための工夫をしなければならない。右利きならば右手だけを使っていれば何ら問題なく生活できるところを、左利きはいつも使いづらいほうを意識して動かしているわけです

──たしかに、右利きだと「やむを得ず左手を使わなければならない場面」というのはほとんど起きないですもんね。

加藤:そうなんです。私も子どものころからずっと「左利きは不便だなあ」と思っていました。マジョリティである右利きのなかで生きることにコンプレックスというか、アウェイ感もありましたね。けれど、脳内科医として脳の研究をしているうちに、「これはすごいぞ!」と。

 だって、工夫しないとサバイバルできない状況下にいるので、生きているだけで勝手に右脳も左脳もバランスよく鍛えられていくわけですよ。10人に9人のマジョリティができていない、独自の脳の使い方をしている。これは左利きならではの強みですよね。

 生まれた時から自分(左利き)と他人(右利き)との違いを物理的に認識することで、そもそも独自路線を見出すことが宿命となっているのです。

左利きは「最適解を出す習慣」が身についている

──二つ目、「日常的に『ミラードローイング』を行い、脳を発達させている」とおっしゃっていましたが、これはどういうことでしょうか。

加藤:「ミラードローイング」とは、鏡に映って反転した像を、鏡を見ながら描くことを言います脳科学の世界では「ミラードローイング」をすると、脳の中のさまざまな脳番地が刺激されることがわかっています。じつは、左利きは、子どものころから「ミラードローイング」に似た作業ずっとやっているんですよ。

──ミラードローイングをずっとやっている?

加藤:子どものころのことを思い浮かべてもらうとわかりやすいかもしれません。子どもは成長の過程において、まずは周囲にいる大人の真似をしますよね。箸やペンの持ち方にせよ、ボールの投げ方にせよ、何をするとしても、まずは家や学校で、周りの大人たちの真似をしなくてはならない。でも、何を学ぶにも、お手本となる人たちがほとんどみんな、右利きなんです。さあ、これは困った。

──たしかに、そうですよね。周りにいる人をそっくりそのまま真似したのでは、できるようにならないわけですね。

加藤:そうなんです。たとえば、学校で読み書きを習うとしましょう。そのとき学校の先生が右利きだったら、まず右利きで文字を書いている動きを観察したあとに、「右だとこうだから、反転するとこうなる。もし左でやるならこう動かさなくちゃいけない」というように、短い時間のなかで一気にいろんなことを考えなくてはならない。

──なるほど、それは大変ですね。

加藤:でしょう? 左利きは、常にそういう状況下で生きているんです。だから、私もよく左利きの子育てについて、「周りの子よりも発達が遅い気がして」と相談されることがあるんですが、焦る必要はないんですよ。だって、すべてを反転させて習得しなければいけないわけですから。おまけに、左利きは言語系を司る左脳を発達させづらいと言われているので、他の子よりも成長が遅く見えて当然なんです。

 でも、私がそういうことで悩んでいる方々に言いたいのは、それはいま「そう見えている」だけであって、じつは思わぬ速度で脳は発達しているかもしれないよ、ということ。実際に、ミラードローイング中の脳機能を測ってみると、前頭葉が大きく動いていることがわかったんです。とくに、何かを考えたり判断したりすることに関わる、「思考系脳番地」の機能に大きな影響を与えることがわかっています。

──すごいですね。でも、言われてみれば納得です。体の中のどの部位をどう動かしたらできるようになるだろう? と、自分で答えを出し、判断する練習をいつもやっているということですもんね。

加藤:いったんは右利きのやり方をがんばって真似しようとする。でもそれだとうまくいかないから、みんながやっているテンプレート的なやり方を土台にして、自分だったらどうするのがいちばんいいだろう? と最適解を考える癖がつくクリエイティブな作業を子どものころからずっとやっていることになるんです。

──なるほど、自分でどんどん考えて答えを出す習慣が身についているんですね。

加藤:脳全体をまんべんなく使うと認知症にもなりにくいと言われているんです。なので、生活しているだけでも日々脳を成長させられる左利きは、「選ばれた才能」だと、私は本気でそう考えています。

 左利きである自分に引け目を感じている人や、子育てに悩んでいる人たちには、「いやいや、そんなことないんだ! 左利きは素晴らしいんだ!」と声を大にして伝えたいですね。

【大好評連載】
第1回 「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット
第2回「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由
第3回 左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差
第4回「左利きは繊細な人?」脳内科医が明かす驚きの事実

「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。
株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由