10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。(初出:2021年10月16日)

「左利きと右利きの言語能力」脳内科医が明かす決定的な違い【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

左利きがイメージをすぐ言葉にできないわけ

 左利きに特有の「ワンクッション思考」は、脳を幅広く活性化させます。(「ワンクッション思考」についてはこちらの記事で解説しています:「左利きと右利きの発想」脳内科医が明らかにする決定的な違い

 しかし一方で、情報や考えをまとめて言葉として発しようとするとき、ワンテンポ遅れがちになることが少なくありません。なぜ言葉がスムーズに出てこないのか、こういう風に考えるとわかりやすいでしょう。

 右脳という倉庫に収められたイメージ情報は、カテゴリーはまったく関係なくバラバラに浮いています。たとえば、1週間前に食べたおいしいチーズケーキや、今日、散歩したときに見たきれいな朝日のイメージなどが所狭しと並んでいるのです。

 つまり、右脳は「並列情報の倉庫だと言えます。

 一方で左脳では、たとえば「赤」「青」「緑」などの言葉は「色」というグループに、「ねずみ」「サル」「キツネ」などの言葉は「動物」というカテゴリーにまとまって記憶されているというダマジオらの研究があります(*1)

 まるで図書館にある本のように整然と区分けされ、あいうえお順にラベリングされて並んでいるようなものなので、取り出そうとするときにすぐに見つけることができます。

 右利きの場合、言葉を発しようとするとき、この左脳の「きれいに整理された情報の倉庫」に直接、出入りすることができるので、簡単に目的とする情報を探し当てて言葉を取り出すことができます。

 しかし、多くの左利きは、まず「並列情報の倉庫」に入ってから、「きれいに整理された情報の倉庫」に行かなければならないので、常に遠回りをしています。脳が情報を処理する時間が少しだけ長くかかるので、アウトプットが遅くなります。このことが、左利きのアウトプットがワンテンポ遅れる最大の理由です。

「左利きと右利きの言語能力」脳内科医が明かす決定的な違い【書籍オンライン編集部セレクション】イラスト/毛利みき

脳に出来不出来はない

 私はこれまで1万人以上の方の脳をMRIで診断し治療してきました。加藤プラチナクリニックでの臨床経験から言えるのが「人より劣っている」と感じるのは、脳のデキが悪いのではなく、単純にその脳番地を使っていないというだけです。脳そのものの大きさや細胞の数に、個人差が大きくあるわけではありません

 つまり、左利きの多くが「言葉でまとめるのが遅い」と感じているのは、左脳を使う時間が右利きと比較して少しだけ短いからという理由であり、決して脳そのものが劣っているわけではないということを、左利きに知ってほしいのです。

 実は、「脳梁の発達が、吃音などの言語流ちょう性に関わっている可能性がある」という研究があります。(*2)

 つまり、左利き特有の脳の使い方を続けて、脳梁と左右の脳をしっかり発達させれば、言葉がスムーズに出てくるようになる可能性が高いということです。私も、国語が苦手だった小学生、中学生、高校生の頃に比べれば、ずいぶんと人前で講演をしたり書籍を執筆したりすることが楽になりました。

 左利きは「うまく話せない」とあきらめずに、ワンクッション思考を積み重ねて、脳を鍛えていきましょう。

(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)

参考文献
*1:Damasio H, Grabowski TJ, Tranel D, Hichwa RD, Damasio AR A neural basis for lexical retrieval. Nature 1996; 380: 499505.
*2:Choo AL, Chang SE, Zengin-Bolatkale H, Ambrose NG, Loucks TM. Corpus callosum morphology in children who stutter. J Commun Disord. 2012;45(4):279-89. doi: 10.1016/j.jcomdis.2012.03.004.

[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com