10人に1人といわれる左利きには、右利きにはない才能が秘められている。そう語るのは、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏です。右利きが快適に暮らせるように整えられた社会で、ある種の窮屈さを感じることも多い左利き。ですが、左利きに適した働き方さえ構築できれば、もっと才能を発揮できると、加藤氏は語ります。
今回は、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)の発売を記念し、「左利きに向いている職場」「向いていない職場」の違いについて、聞きました。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差

左利きの個性が活かせる環境とは

──加藤先生ご自身も左利きで、試行錯誤しながら自分の能力を発揮できる、いまの脳内科医の仕事を見つけたと本書で書かれていましたよね。自分の個性を活かせる環境を探すのが、左利きの生きづらさを解消するポイントでしょうか。

加藤先生(以下、加藤):そうですね、マジョリティである右利き用に整えられた社会のなかで生きていくのって、なかなか大変なんですよ。矯正する・しないに関わらず、自分にとって使いにくい方の手足を多く動かさなくてはならないので、「アウェイだな」と感じる場面も多々ある。

 大人になるにつれ慣れていく人は多いでしょうが、それでも脳の使い方が違うので、やっぱり向き不向きというのはどうしても出てきやすいと思います。

──加藤先生はこれまで、1万人以上の脳を見てこられたんですよね。当然誰しもに当てはまるセオリーというのはないと思いますが、左利きに「向いている職業」「向いていない職業」など、傾向みたいなものはあるのでしょうか。

加藤:定型的な仕事は向かない、という人は多いんじゃないかと思います。すでに会社できっちりとしたマニュアルが決まっていてその通りにやってくださいと指示され、ちょっとでも違う方法でやるとすぐに怒られるとか、そういう雰囲気の会社はあまり向かないんじゃないかな。

──マニュアル通りにやるのが苦手、ということでしょうか?

加藤:いや、苦手とかではなくて、やろうと思えばやれるんですよ。ただ、それを「やり続けるのがつらい」んです。なぜかというと、左利きって問題点や改善すべき点が目につきやすいんですよ。

──問題点が目につきやすい?

加藤:そうですね、左利きがどのようにして成長するか、を想像してもらうとわかりやすいかもしれません。

 そもそも、なぜ「利き〇〇」があるのかというと、処理速度が速くなるからなんです。たとえば、転びそうになったときにとっさに右手で地面に手をつくなど、優先順位が決まっていると、ムダな動きが減って危険を回避できる可能性が高くなりますよね。

「利き〇〇」が決まっていないと、何か行動をするたびにいちいち「どっちの手を使おうかな」と考えなくてはいけません。「利き〇〇」があることによって効率よく作業を処理できるんです。

──なるほど。

加藤:右利きの人ならば、現在の社会では左手を使わないと困る場面がほとんどないので、何をするにも「右手を使う」という選択肢しかないんです。けれど、左手にとっては違う。

 たとえばレストランに行くたびに「どこに座れば隣の人と肘が当たらないかな」と考えなくてはなりません。一般的なお店で売られている道具類もほとんど右利き仕様になっていますから、料理するときにも右利き用のおたまや包丁を使わなくてはならない。

 右利きの人が何気なく生きている社会のなかで、つねに「工夫する」癖がついているのです。

窮屈に感じている脳こそがアイデアを生む

──そうか。つねに、工夫してカスタマイズしながらいろいろな物事を処理しなくてはならないわけですね。

加藤:はい。ただ、これだけ聞いているとものすごく窮屈な生き方をしているな、と感じるかもしれませんが、別の見方をすれば、とんでもない可能性を秘めているとも言えるんです。「もっといい方法はないか」と常に探す脳になっているということですから。

──仕事では、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?

加藤:「より効率的な方法」「より成果を出しやすい方法」を見つけるのがうまいんです。誰も気がついていなかったような細かいことや突飛なやり方に気がつけるので、どんどんアイデアが浮かぶ。

 だから、向いていないのは何かと言われると、「業務内容があまり変わらない安定した仕事」と言えるかもしれませんね。延々とやることが決まった職場にいて、「これだけやってればいいよ」と言われるとかもう、地獄なんです(笑)。頭に浮かぶその発想力の源を止めておいてくれと言われているようなものですから。

──たしかに言われてみれば、私の知り合いにも細かいことに気がついてくれる人が多い気がします、左利きには。

加藤:普段から物事の違いを探すのが癖になっているから、「見つけよう」と意識しなくても見つかっちゃう、という感じの人が多いと思うんですよね。私も、新しい診察方法などをふっと思いついて、周りに驚かれたことがあります。

──老舗の大企業とかはあまり向かないのかもしれませんね。ルールやマニュアルを変更するのにも、いろいろな人に根回ししたり、長い間議論したりしなければならないかもしれませんし。

加藤:左利きの人は、「このマニュアル、本当に必要なのか?」という原点のところから考える、「原点思考」をするんですよね。「そもそも、これって必要?」みたいな。

──すごく優秀な人の考え方ですよね。

加藤:この原点思考から始めないと、頭が働かないんですよ。だから、流れ作業の中の一部だけやってくれたらいいよと言われても、「いや、でもこの部分をよくするには、もっと根底からやり方を見直さないといけないじゃないですか」というように、深く考えてしまう。

 だからまあ、見方を変えると、ちょっと優柔不断になりやすいとも言えるかもしれません。ある程度自分に裁量権があって、やり方も自分で自由に考えていいですよ、という職場であればどんどんアイデアが浮かぶので、そういう場所を探してみるのがいいんじゃないでしょうか。

──独創性が高いのと、非言語の情報処理に関わっている右脳が発達しているのでクリエイティブな仕事に向いている、というお話もありましたよね。

加藤:だから、自由にアイデアを出してもいい働き方を構築できさえすれば、最強の左利きになると思いますよ。がんばって周りに同調しようとしたり、同じことばかり繰り返すような仕事をしていると、それこそ墓場に入ったようなつらさを感じますから。

──「周りに合わせられない自分が悪いんだ」と自分の才能をうまく発揮できていない人も多そうですよね。

加藤:そうなんです。なので、私が左利きで生きづらさやコンプレックスを抱えている人に伝えたいのは、左利きで窮屈に感じている脳こそが、じつはアイデアを生む場所であり、自分の才能なんだよ、ということ。世の中で「マイノリティ」である左利きに、効果的に脳を育て、自分の才能を思いっきり発揮してほしいなと思います。

【大好評連載】
第1回 「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット
第2回 「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由
第3回 左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差
第4回「左利きは繊細な人?」脳内科医が明かす驚きの事実

左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。
株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差