トランプ前大統領は
独自SNSの立ち上げへ

 アメリカ史上、現職大統領が再選挙で敗れた後に返り咲いたケースは一度しかない。第22代・24代大統領を務めたグローバー・クリーブランド大統領だけだ。闇夜に針の穴を通すほど至難の業なのだが、権力欲の塊のトランプはそんなことなど気にも留めていないのだろう。なにしろ史上初2回の弾劾裁判をすり抜けている。

 選挙で物を言うのはまず資金力だ。米大統領選ともなれば莫大な資金が必要になることは皆さんもご存じだろう。トランプ前大統領はバイデン大統領に負けた2020年11月の選挙以降、すでに「Save America(アメリカを救え)」をはじめとして三つものPAC(Political Action Committee)と呼ばれる政治資金団体を設立している。

 連邦政府に提出された書類によれば、今年上半期だけで8200万ドルの政治資金を集めた。現在の資金総額は、米メディアの推計によれば、1億ドルを超えているというから驚きだ。

 次に必要なのは世論を沸き立たせる発信力である。大統領就任前からトランプ前大統領はテレビやツイッターを巧みに操って扇動的なメッセージで庶民の不安をあおり、支持を広げていった。トランプ前大統領にとって9000万人近くのフォロワーがいたツイッターは人々の注目を常に彼に集中させ、不都合なニュースから目をそらせる最強の政治的武器だったのである。

 しかし、ホワイトハウスを去った今は、1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を扇動したとしてフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなど大手SNSからアカウントを停止されてしまっている。発信力はガタ落ちだ。テレビのニュースでもあまり顔を見なくなった。

 どうするのかと思っていたところ、10月20日に新手を繰り出した。自身の新会社トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)と特別買収目的会社(SPAC)のデジタル・ワールド・アクイジション・コープを合併させ、独自のソーシャルメディアを来年3月末までに全米で立ち上げるというのだ。

 その名も「TRUTH Social(トゥルース・ソーシャル)」。真実のソーシャルメディアという意味だ。「あれだけうそ八百を並べ立ててきたくせによく言うよ」と思わずのけぞってしまいそうだが、ご本人はまだ大統領気取りでやる気満々。

「私はビッグテックの横暴に対抗するためTRUTH Socialを立ち上げる。我々はタリバンでさえツイッター上で大きな存在感を持つ世界に生きている。それなのにみんなのお気に入りのアメリカ大統領が沈黙させられているのだ。そんなこと受け入れられない!」

 この突然の発表でデジタル・ワールド・アクイジションの株価は一時400%を超える値上がりを記録。ナスダックの売買高トップとなり時価総額は14億7000万ドルに膨れ上がった。あざとい金もうけには抜け目がないところは今も変わっていない。