GDPでは中国に抜かれ、人口で劣るドイツにまで抜かれた日本だが、世界に先駆けた取り組みで日本経済をけん引する企業は少なからずある。最新の経営戦略論の中で語られる、日本の製造業の強みとは?※本稿は、岩尾俊兵『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
日本メーカーの「ケイレツ」は
外製と内製のメリットを取り込む
日本の大手製造業の中には、部品供給者・サプライヤーとの間に長期的な関係を構築するという慣行がよく見られる。特に、自動車産業においてそれは顕著であった。
たとえばトヨタであれば協豊会、日産であれば日翔会、マツダであれば洋光会といったように、部品のサプライヤーが加盟する業界団体が存在する。
部品メーカーと完成車メーカーには、資本関係がある場合も、そうでない場合もある。ここで重要なのは、資本関係の有無に関係なく、長期的な取引と信頼関係を通じて「ウチは○○(完成車メーカー名)系ですから」という意識が根づくことだ。
こうした、部品の取引関係のある企業同士の緩やかな連合関係を、「系列、ケイレツ」という。
「系列」は海外においても、「ケイレツ(Keiretsu)」という日本語のままで通じることが多い。
ケイレツに参加している企業群は一つひとつ基本的に独立した企業であるが、同時に、まるで一つの巨大企業のようにふるまうのである。
このように、独立している企業同士がまるで一つの巨大組織として協働することは「中間組織」などと表現されることもある。
ケイレツ内では、部品の設計を公開したり、設計を互いに任せたり、生産設備を見せ合ったり、材料を融通しあったりといったことがおこなわれる。
これらは、ライバル関係にある企業同士であれば、考えられないことだ。
もちろんケイレツには、独立した企業として、系列外の企業と取引をおこなったり、厳しい価格競争を繰り広げたりする側面もある。ケイレツは、完成品メーカーからすれば、価格競争力など市場での部品調達・外製のメリットと、関係特殊的な投資の促進や情報の共有、助け合いといった内製化のメリットとを併せ持っている。
サプライヤーシステム全体が
日本メーカーの競争力の源泉
さらに、こうしたサプライヤー関係の中に競争優位の源泉を見出したブリガムヤング大学のジェフリー・ダイヤー教授とペンシルバニア大学のハーバー・シン教授は、これをリレーショナル(組織間関係)・ビューとしてまとめあげた。
これは、企業の競争優位を説明するには1企業を見るだけではダメで、サプライヤー・システム全体に着目する必要があるという理論である。
それまで、企業の戦略的な優位性は基本的にその企業自体に由来すると考えられてきた。
これに対して、リレーショナル・ビューは「1社だけを観察することの限界」を指摘したものといえる。