社外、社内の両方向から
デザインのクオリティを高めていく

『進化思考』の著者が説く、経営者が良きデザイナーであるべき理由Photo by ASAMI MAKURA

――太刀川さんは今年、ネットサービス企業、アペルザの外部CDOに就任されていますね。企業が外部CDOを持つことの意義についてはどうお考えですか。

太刀川 デザインのクオリティの監修者として外部CDOを起用する試みは、もっと広がってもいいと思います。デザインの方針が既に決まっていて、あとは実装するだけ、という段階なら専任のCDOを社内で立てればいいのですが、その前段階なら社外の知見を入れた方がいい。

 アップルのような大企業でも、本当に製品コンセプトの根幹を決めるデザイナーはほんの一握りです。そして、その少数が圧倒的に高いクオリティを生み出している。そこそこの人がたくさんいるだけでは「メニューが多いけど行列ができないレストラン」にしかなりません。増員や内製化ではクオリティは上がらない。破壊力のある強いクオリティは話題性や社会的意義を踏まえてコンセプトを編み上げないと生まれないし、逆にそれができれば理不尽なほどの差が出るのもデザインです。だから最初は、最高のクオリティラインを知っている人の目を通すことは重要だと思います。それが外部の人であってもです。

――企業内のデザイナーは経営との関係をどうつくっていくべきでしょうか。

太刀川 ジョナサン・アイブは、デザイナーからアップルの上級副社長になりましたし、日本企業でもマツダの前田育男さんはデザイナーから常務になっています。そういう例はすでにたくさんあるのですから、デザインが出世ロードに直接つながっていない状況に普通に疑義を呈し、社内の固定観念を壊していかなくてはなりません。経営的な言葉を理解し、経営層に説得力を発揮できるデザイナーが社内で育ち、経営者候補が出てくれば企業の未来は変わってくると思います。

――デザイナーと経営者の共通言語をつくることが重要となってきますね。

太刀川 実は、『進化思考』を書いた目的のひとつがそれなんです。あれはビジネスの本、あるいは科学の本にも読めますが、中身は広義のデザインの本です。クリエイティブ側の人は「こういう言葉なら経営者に伝わるんだな」と理解してほしいし、経営者は「ものごとの形はこう発生するのか」と捉えることで適切にデザインを判断できるようになると思います。双方に対するデザイン教育のやり直し……というと偉そうですが、そんな思いを込めています。

――認識がつくられることと同時に、具体的なアクションにつながる何かが重要です。

太刀川 経営者とデザイナーが対話する機会を増やす工夫が必要だと思います。両者が会社の在り方をデザインに求め、その表現を話す機会が圧倒的に少ない。両者の生きた言葉が、重なったり、ずれたりを繰り返しながら、最後は何か共通の認識を生みだしていくプロセスはとても創造的なものです。そんな体験をできるだけ多くの経営者やデザイナーが共有してもらいたいですね。そのサポートはJIDAの一つの役割とも言えますし、私個人としても、ぜひ取り組んでいきたいテーマでもあります。