今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。著者の太刀川英輔氏は慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化に創造性のヒントが詰まっている」ことを見いだした。今回は、日本人が特に嫌う「失敗」について取り上げる。生物進化を検証すれば「小さな失敗」こそが創造の萌芽であり、これを否定し続ければ、環境の変化に適応できず死につながるという事実が見えてくる。
アイデアは本当に「意思」の仕業なのか
こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化から学んで、生き残るビジネスの発想やデザインなどを生み出す創造的思考法「進化思考」を提唱しています。本連載では、その進化思考を(512ページの鈍器本を読まなくても)重要なエッセンスを抽出して学んでいきます。
さて連載1回目の記事では、生物の進化の原理とビジネスの発想などの創造的現象は両方とも「変異≒ボケ」と「適応≒ツッコミ」の繰り返しによって起こる、という進化思考の概論をご説明し、こんな投げかけで締めくくりました。
私たちは自分が思うほどには、意図を持ってモノを創造してはいないのだ。
(『進化思考』 P446から)
かねてより「創造」と「意思」は不可分なものと考えられてきました。ビジネスでも芸術でも、あらゆる創造領域で、「私たちの意思は創造性の根源だ」と語られ続けています。しかしここで考えてみたいのは「アイデアは意思によって導かれるのか、本当に?」という疑問です。
もちろん私も意思の力を否定していません。強い意思を持った発明家や事業家などの連綿とした創造性で、文明は作られてきたのですから。
けれども、もし意思だけが創造の源泉だと考えてしまうと、新しいモノを作れた人は意思が優れていて、作れなかった人は意思薄弱だった、という結論になってしまいます。これでは救いがありません。むしろ私たちが創造性にコンプレックスを持つのは、こんなふうに発想を属人的な意思の問題にしすぎているからです。
一方で、必ずしも私たちは意思を持って発想していないという考えは、一見、私たちの直感とは反するものです。でも、偶然何かをひらめいたり、自分の意思とは関係のない外的な理由に導かれて意思決定したことは、きっと誰にでもあるでしょう。つまり実際の創造性は意思以外の要素に満ちていて、私たちは無意識的にも毎日それを経験しています。