ドンキ創業者 安田隆夫の「遺言」#3Photo:PIXTA

「ドン・キホーテ」で知られるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は34期連続の増収増益を達成し、時価総額は約2.5兆円、小売業界4位の巨大企業へと急成長した。緊急特集『ドンキ創業者 安田隆夫の「遺言」』の#3では、小売りの“異端児”である創業者の安田隆夫氏の緊急インタビューの後編をお届けする。安田氏に「引退後」の会社の姿から勝ち続ける経営者の条件、後継者選びや息子の処遇、皆に贈りたい「遺言」まで本音を吐露してもらった。(聞き手/ノンフィクションライター 泉 秀一)

大企業まで発展させられる経営者は
我欲にとらわれず自分を殺す

――PPIHの特徴は、34期連続増収増益が示すように「勝ち続けている」ことです。栄枯盛衰の激しい小売業で成長し続けられるのはなぜでしょう。

 我欲にとらわれず、公私混同しないこと。そして自分を殺すこと。それが中小企業で終わる経営者と、大企業にまで発展させられる経営者の違いです。

 私より能力のある経営者は山のようにいます。だけど、結果を見ると、倒産させた人も少なくない。違いは何か。それは、会社の成長とともに、起業家自身が変われるかです。

 起業家たるもの、会社を興す時の原動力は「何クソ」というねたみだったり、お金持ちになりたいという欲望だったりする。創業者と言われるような人は、人一倍我欲が強いからやれるわけですよ。それを表に出すか隠すかはそれぞれですが、中身は誰しも我欲が強い。だから、ある程度の成功を手に入れられる。

 ところが、中小企業から大企業に進化するタイミングで、経営者は無私になって変わらなければいけない。少なくとも私は、無私になることを心がけた。自分が大株主で融通を利かせられる立場にあっても、公私はしっかりと分けて厳格に運営していきました。

 言葉にすると当然のように聞こえますが、徹底できる人は少ないと思いますね。リスクを取って創業し、死に物狂いで会社を成長させてきた。だから、少しくらい公私混同してもいいじゃないかと思うものです。

 でも、絶対にそれをしない。お金だけじゃなく、従業員への接し方もそう。働いてくれている人たちに心から感謝をして、仕事を任せる。私たちのような小売業は、経営者が24時間死に物狂いで頑張っても限界があります。多くの人たちに働いてもらって価値が増す。その先にしか成長はありません。であれば、自分の欲望は封印するしかありません。

 経営者の金もうけのために死に物狂いで働けと言われても、嫌でしょう。給料は変わらないのに、経営者のために働く従業員はいません。