「そのパーパスはどこまで本気か?」パーパスブームに違和感を覚える理由Photo:PIXTA

(1)世界中のキャッシュが数えられる、(2)世界中のタレントが見えている、(3)自社の方向性を明確に示せている――。こうした3つの「基本行動」を実践し、そして結果(社会的と経済的の双方)を出し続けているグローバル企業を、著者らは「ワールドクラス」と呼んでいます(詳細は第1回をご覧ください)。日本企業の皆さんに本連載でお伝えしたいのは、「本気でグローバル経営に挑むために、まずは『ワールドクラスの経営の型』を正しく理解する」ことです。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

 相次ぐコーポレートガバナンス改革に、形式的対応に追われる一部の現場では、疑問の声が上がる。「それで結局、会社は強くなったんだっけ?」。この真っ直ぐな問いを、コーポレートガバナンスを専門とする宮島英昭・早稲田大学教授にぶつけてみた。ガバナンス改革でできることと、できないことを切り分ける。当たり前の先に、成長力強化につながる本当に必要な施策が見えてくる。

この10年で大きく変化した
日米の「ハイブリッド型」経営システム

日置圭介(以下、日置) 全3回の宮島先生との対談も最終回です。今回は「一連のコーポレートガバナンス改革が、本当に企業力強化につながっているのか?」をうかがいたいと思います。

宮島英昭(みやじま・ひであき)宮島英昭(みやじま・ひであき)
早稲田大学商学学術院教授、早稲田大学常任理事、経済産業研究所フェロー、早稲田大学高等研究所顧問。専門は日本経済論、企業統治。近著として『企業統治と成長戦略』、監訳に『株式会社規範のコペルニクス的転回: 脱株主ファーストの生存戦略』(共に東洋経済新報社)など。

宮島英昭(以下、宮島) まず、企業が実際にどのような行動を取ってきたのかを振り返ってみましょう。

「失われた10年」を経験した2000年代初頭、「日本型の企業システムを根本的に変革する必要がある」というムードが経済界全体に広がりました。これで一気に米国型へ収束していくと思われました。

日置 ところが、実際はそうはならなかったんですね。

宮島 そうです。ものづくり産業では、資金調達や株主構成について米国型を取り入れた一方、経営判断に関しては、現場の知識や経験が必要だとして、取締役改革や雇用面では、長期関係を重視しました。いわば、日本と米国の「ハイブリッド型」です。

 その最たる例がトヨタ自動車です。2003年に執行役員制を導入したものの、専務が業務執行を兼務していたり、社外取締役も導入しませんでした。

日置 当時の松下電器(現パナソニック)も執行役員制を導入しながら、執行と監督を完全には分離しないシステムを採用しています。取締役と執行役員の兼務は今でも多く見られますね。

宮島 松下電器はトヨタと共同で、現場と乖離しない日本型モデルを研究した結果、そのような体制を取ったと言われています。しかし、その「ハイブリッド型」経営システムの中身も、この10年で大きく変化しました。

日置 何かきっかけがあったのでしょうか?