(1)世界中のキャッシュが数えられる、(2)世界中のタレントが見えている、(3)自社の方向性を明確に示せている――。こうした3つの「基本行動」を実践し、そして結果(社会的と経済的の双方)を出し続けているグローバル企業を、著者らは「ワールドクラス」と呼んでいます(詳細は第1回をご覧ください)。日本企業の皆さんに本連載でお伝えしたいのは、「本気でグローバル経営に挑むために、まずは『ワールドクラスの経営の型』を正しく理解する」ことです。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)
2021年を代表するビジネスワード「パーパス」。日本でも自らの存在意義を再定義しようという動きが目立つが、英米とは前提となる状況がまるで違うと宮島英昭・早稲田大学教授は指摘する。社会価値を持ち出すことで現代的な経営を実践していると思い込んでいるのならば、ワールドクラスの背中はますます遠のく。一時のブームに終わらせないためのカギは、経営者の「本気」にある。
日本のパーパスブームはなぜ起こったか?
米英の動きとの違いは何か?
早稲田大学商学学術院教授、早稲田大学常任理事、経済産業研究所フェロー、早稲田大学高等研究所顧問。専門は日本経済論、企業統治。近著として『企業統治と成長戦略』、監訳に『株式会社規範のコペルニクス的転回: 脱株主ファーストの生存戦略』(共に東洋経済新報社)など。
日置圭介(以下、日置) 今、会社としての目的や存在意義、いわゆる「パーパス」を見直す動きが広がっています。
社員を巻き込みながら、すべての企業活動のよりどころにしようというところがある一方で、「ブランディング手法のひとつ」程度に捉えているところもあって、またひとつバズワードが増えただけという冷めた意見もあります。宮島先生はどう見ていらっしゃいますか?
宮島英昭(以下、宮島) 英国や米国では、2010年代後半以降、株主至上主義への疑問を背景として、パーパスをめぐる議論が盛んに行われてきました。
世界的な資産運用会社のブラックロックは、「社会的な価値を生み出すことが長期的な成長につながる」として、従業員や顧客、そして社会に賛同される理念を示すことを求めました。
また、2019年には米国の経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが、「従業員など他のステークホルダーの価値を重視すべきだ」という考えを表明し、注目を集めました。
それまでにもマイケル・ジェンセンが、ステークホルダーの利益を最大限考慮しながら長期的な株主価値の実現を図ることを提唱してきましたが(enlightened shareholder value maximization)、あれは突き詰めれば、「株主とそれ以外のステークホルダーの利益が対立する場合には経済価値、つまり株主価値が優先される」という考えかたなんですね。
それに対してここ数年の議論は、「場合によっては株主価値が劣後することもあり得る」というものです。オックスフォード大のコリン・メイヤー教授はそれを「コペルニクス的転回」と呼んでいます。系譜的には、経済価値と社会価値の両方を追求する「CSV」(Creating Shared Value/共通価値の創造)を提唱したマイケル・ポーターの主張に近い。
日置 日本のパーパスブームも、そのような流れの延長戦上にあるということですね。