「そのパーパスはどこまで本気か?」パーパスブームに違和感を覚える理由Photo:PIXTA

(1)世界中のキャッシュが数えられる、(2)世界中のタレントが見えている、(3)自社の方向性を明確に示せている――。こうした3つの「基本行動」を実践し、そして結果(社会的と経済的の双方)を出し続けているグローバル企業を、著者らは「ワールドクラス」と呼んでいます(詳細は第1回をご覧ください)。日本企業の皆さんに本連載でお伝えしたいのは、「本気でグローバル経営に挑むために、まずは『ワールドクラスの経営の型』を正しく理解する」ことです。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

 株主価値の向上をひたすら追求してきたと思われがちな「ワールドクラス」だが、実態は違う。「SDGs」や「ESG」などの言葉が使われるはるか前から、社会価値に重きを置くところは多い。アクティビストやESG投資家に振り回されながらも、自分たちなりのやり方で「二兎を追う」しぶとさから何を学ぶべきか。宮島英昭・早稲田大学教授と対話した。

トヨタの国内生産300万台
死守に見る覚悟

日置圭介(以下、日置) 今回は、「SDGsをはじめとする社会課題の解決に、企業がどう関わっていくのか?」について、伺いたいと思います。

 ここでも先行したのは、やはりワールドクラスでした。例えば、IBMでは2008年に、「地球規模の課題をITで解決して地球をより良くする」というコーポレートビジョン「スマーター・プラネット」を掲げました。きれい事に聞こえますが、言うまでもなくビジネスで勝つためのコンセプトです。ただ、その背景には「自分たちがアメリカという国を背負ってるんだ」というくらいの自負があったと思うんです。まあ、私も所属していたので、ひいき目もあるとは思いますが。

 今から10年ほど前だったか、宮島先生との会話の中で、「日本は歴史上、初めて貧しくなっていく局面に入ったかもしれない」とおっしゃっていらしたのが強く記憶に残っています。そして、その現実味はますます増しています。そうしたなかで、IBMのように、社会課題で稼いで国の未来を開いていくんだというほどの覚悟がある日本企業がどれくらいあるでしょうか。

 縮んでいく国で、まずは何とかして生き残り、成長するための将来のシナリオを描く――。世界の貧困や飢餓、気候変動、水問題などSDGsへの貢献を否定するものではありませんが、今の日本にはそれ以前に考えるべきことがあるはずです。

宮島英昭(以下、宮島) トヨタ自動車が円高などによって経営環境が悪化するなか、サプライチェーンや雇用を維持するために国内生産300万台を死守しようとしているのは、もしかしたらそうした覚悟に相当するかもしれませんね。