『課長2.0』の著者・前田鎌利氏と『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』の著者・越川慎司氏が「結果を出し続けるチームを育てるリーダーの思考法」について語り合う対談が実現した。コロナ禍によって一般的となった、リアルワークとリモートワークを併用するハイブリッド型のワークスタイル。働き方の変化により、リーダーもまた、これまでとはマネジメントの仕方を変えることが求められている。では、具体的にどう変えたらよいのか。対談によって見えてきた、これからのリーダーに求められる「必須スキル」とは?

「不機嫌おじさん」が組織の生産性を下げるメカニズム写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

なぜリーダーは会議で「しゃべりすぎてしまう」のか

越川慎司さん(以下、越川) 日々の仕事において、会議って非常に重要な存在ですよね。そこで、リーダーがどうふるまっているかは、組織やチームの業績に大きな影響があるはずです。そこで、私たちは、8000時間以上の会議を録画し、3500人以上のリーダーの行動をAIで分析しました。

前田鎌利さん(以下、前田) 「8000時間以上の会議を録画」ですか……すごいなぁ。AI時代だからこそできる、現状分析。すごい時代になりましたね。

越川 そうですね。それで、ひとつの特徴的な傾向が見えてきました。成果を出していない古参のリーダーほど、会議でよくしゃべることがわかりました。

前田 なるほど。それは、実感とも合致するような気がします。誰も頼んでないのに、昔の武勇伝を延々と……目に浮かびます(笑)。

越川 そうそう。彼らは会議時間のうちほぼ6割を自分の話で埋めてしまっているのですが、そのほとんどが「一度した話」、それも「過去の栄光や伝説」を話しているんですね。ただ、大昔の武勇伝を話されても現在には活用できませんから、メンバーは困惑し、モチベーションを落とすだけです。だからさらに、成果が出づらくなっていくんです。

前田 なんで、あんなにしゃべってしまうんでしょうね?

越川 理由は2つ考えられます。

 ひとつは「自信のなさ」です。気力・体力の衰えを感じていて、若いメンバーに引け目を感じているからこそ、「なめられちゃいけない」と思って「自分がすごかった話」をしてしまうんです。

前田 なるほど。

越川 そして、もうひとつの理由は、「そもそもメンバーがしゃべらない」ということ。だから間を埋めようと、リーダーが必要以上に話してしまうんです。

前田 ああ、それ、すごくわかります。なんとかメンバーにしゃべってもらおうと、リーダーは場を温めようと奮闘するのですが、空回りしてしまうという……。

越川 ええ、リーダーがしゃべればしゃべるほど、メンバーはしゃべりにくくなる。まさに悪循環ですね。

 しかも、いまはリアル会議よりもオンライン会議が増えていますから、条件はさらに悪い。実際、「ビデオがオフになっていると発言の機会が減る」という傾向が顕著に出ていますが、オンライン会議中にビデオをオンにしているのは、メンバー全体の21%にすぎないんですよ。

「不機嫌おじさん」が組織の生産性を下げるメカニズム越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー 代表取締役社長。株式会社キャスター 執行役員。
国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者やPowerPointやOffice365などの事業本部長を務める。2017年に改善活動のコンサルティング会社 株式会社クロスリバーを起業。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日・週30時間労働を継続。のべ700社以上に、ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら利益を上げていく「儲け方改革」の実行を支援。2018年から700名以上がリモートワークの株式会社キャスター執行役員と兼任。著書に、『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。

前田 ビデオオフの会議は、絶対にうまくいかないですね。

 私たちがコミュニケーションにおいてやりとりしている情報には、話の内容などの「言語情報」、口調や話の早さなどの「聴覚情報」、表情やしぐさなどの「視覚情報」がありますが、メラビアンの法則によれば、相手が発したあいまいなメッセージを読み取るうえで影響力が最も強いのが「視覚情報」で55%だとされています。「聴覚情報」が38%で、「言語情報」はわずか7%にすぎないのだ、と。

 つまり、ビデオオフの会議って、その最も重要な「視覚情報」を完全に遮断するということですから、コミュニケーションは絶望的に難しくなります。ほとんど何も伝わらない会議になってしまうと思っておいたほうがいいと思いますね。

越川 そうなんですよ。だから、オンライン会議では、「話しやすい雰囲気づくり」以前に、まずメンバーに「ビデオをオンにしてもらう」ことがどうしても必要になってくるわけです。

前田 なにはさておき「ビデオオン」が大事ですよね。ところがですね、そもそも社員に配布しているパソコンにカメラがついていないという会社もあるんです。だからオンライン会議では、発言のときにいちいち「すみません○○ですが……」と名乗ってから発言するんですけど、みなさん年齢が同じくらいで渋い声の男性ばかりなものですから、誰が誰なのかをつかむのがなかなか困難で……。

越川 それは厳しいですね。リモートワークでも成果を残し続けるにはオンライン会議ではビデオオンにすべきですね。「トップ5%リーダーはどうしているのか」を調べたところ、メンバーがビデオをオンにしやすくなる仕掛けをいくつか施していることがわかったんですよ。

前田 どんなことをやってるんですか?

越川 じつは、そんなたいそうなことじゃないんです。たとえば「自分が率先してビデオをオンにする」「その上で、口角を上げて穏やかな表情を見せる」「冒頭の2分だけ雑談してビデオをオンにする時間を設ける」といったようなことですね。

 こうすることで、メンバーが「ビデオオン」にしても不愉快な思いをしない、むしろ、心地よいコミュニケーションが取れると実感してくれるようになれば、徐々にメンバーが率先してビデオをオンにするようになる。そして、いつの間にか、自然に話し始める。するとリーダーが、気まずい沈黙をなくすために、無理に話す必然性もなくなっていくわけです。