管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。
気軽に話しかけられる「存在」であることが大事
話しかけやすい存在か否か──。
これは、管理職として機能するかどうかを大きく左右するポイントです。メンバーにとって声をかけにくい存在だと思われていれば、ホウレンソウもなかなかしてくれませんし、こちらから話しかけても心を開いてくれません。それでは、マネジメントのしようがないからです。
そのために大切なのは「ステージゼロ」を大切にすることです。
「ステージゼロ」とは、具体的な仕事に入る前段階の、日常的な立ち居振る舞いやコミュニケーションのことを指す私の造語です。
頭の中でどんなに立派なマネジメント戦略を考えていたとしても、この「ステージゼロ」をないがしろにしていては、何も始まりません。日常的な立ち居振る舞いやコミュニケーションを大事にすることで、「話しかけやすい存在」になることこそが、優れたマネジメントを実現する第一歩なのです。
そのために、私は、管理職だった頃、いろいろな工夫をしていました。
例えば、自分のデスクの横に小さな椅子を置いていました。椅子を置くことで、メンバーに「いつでも自分の席に来て話しかけてもいいよ」というメッセージを送っていたのです。そして、メンバーが相談に来てくれたときには、自分の仕事の手を止めて、穏やかな気持ちでしっかりと向き合うように心がけていました。
もちろん、リモート環境下では、自分のそばに椅子を置いても意味はありません。そこで、メンバーがメールやチャットで話しかけてくれたときに、クイック・リスポンスを徹底することで、「椅子を置く」のと同じ効果を生み出すことができるでしょう。いつチャットを投げても、管理職からすぐに返事が返ってくれば、メンバーは「いつでも話しかけていいんだ」と思ってくれるはずだからです。
注意したいのは、テキストによるコミュニケーションには、表情や声音という非言語的情報が抜け落ちてしまいますから、無機質で無愛想な印象をもたれがちということです。ですから、事務的な内容であったとしても、文末に「!」と入れることでポジティブな印象を与えたり、絵文字なども使って「気持ち」を表現することを心がけたほうがいいでしょう。
重要なのは、メンバーが話しかけてくれることを「歓迎」する気持ちを毎回伝えることです。そして、メンバーに「この管理職に話しかけても、不愉快な気持ちにされない」「この管理職に話しかけると、ポジティブな気持ちになれる」といった感覚をもってもらうことができれば、メンバーとの距離は自然と近づいていくはずです。
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。