「元・日本一有名なニート」としてテレビやネットで話題となった、pha氏。
「一般的な生き方のレールから外れて、独自のやり方で生きてこれたのは、本を読むのが好きだったからだ」と語り、約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した。
本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介する。
なぜ「不毛な議論」が起こる?
僕はヒマなときは大体ツイッターを見ている。
見ても大した情報があるわけじゃないけれど、つい見るのをやめられない。軽い依存症かもしれない。
よく思うのは、ツイッター上にはいつも議論や言い争いが多いということだ。
特に多いのは、政治的な問題についての論争だ。
世の中には、政治的に左寄りの人と右寄りの人がいて、いつまでも決着がつかず延々と喧嘩をしている。いい加減どちらが正しいか決着がついて、無益な争いがない新しい世の中が始まってもいいんじゃないかと、ときどき思う。
人間は、なぜ何百年も何千年も、こんな不毛な論争を繰り返しているのだろうか。
そんな政治に対する疑問が解けた本がある。
ジョナサン・ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』だ。
この本は、人がなぜ左と右に分かれて争うのかを、社会心理学者の著者が、人間の特性から説明した本だ。
著者は、思想的にはもともとリベラル(左)だったけれど、この本を書くことで、保守主義者(右)のことも理解できるようになったらしい。
社会はなぜ左と右に分かれるのか?
なぜ、社会は左と右に分かれるのか。
その理由は、遺伝子によって左寄りの考え方になりやすい人と、右寄りの考え方になりやすい人がいるからだという。
教育や環境ではなく、遺伝子が原因だというのが意外だった。
それは、データでも確かめられているらしい。違う環境で育った一卵性双生児の双子を調べてみると、政治的傾向が似ていることが明らかに多いそうなのだ。
どんな遺伝子の違いがあるかというと、保守主義者はリベラルより、自分を脅かすもの(細菌や汚れや突発的なノイズなど)に対して強く反応する遺伝子を持っている。
また、リベラルは、新しい経験や感覚を強く求める遺伝子を持っているが、保守主義者はそうでもない。
つまり、脅威に対して鈍感で、自分をそれほど守ろうとせず、新しいものに好奇心を持ちやすい遺伝子を持っている人間が、リベラルになりやすいということなのだ。
リベラルになる人間は、保育園くらいの頃から「好奇心が強い」「独立心が強い」「攻撃的」などの特徴を持っているらしい。
右と左に分かれる基準
また、多くの社会では、左の勢力より右の勢力のほうが強いらしい。
その理由は、左より右の思想のほうが、人間の感じる「良いこと(ケア・公正・忠誠・権威・神聖・自由の6つ)」を多くカバーしているからだそうだ。
ただし、「左より右のほうが強い」といっても、それは右のほうが正しくて、左のほうが間違っている、ということではない。
社会は、両方がいてうまくバランスが取れているのだ。
たとえば、社会の中で右寄りの人が100%になったとしたら、社会が保守的になりすぎて、新しいものがまったく生まれなくなり、息苦しくて停滞した社会になりそうだ。
逆に、左寄りの人間が100%になったとしたら、みんなが自由で新しいことをやりすぎて、社会が崩壊してしまうかもしれない。
人間の社会には、左寄りの人も右寄りの人も両方いることが必要なのだ。
ある生物の集団が持っている遺伝子の全体のことを「遺伝子プール」と呼ぶ。
人類の遺伝子プールの中で、右寄りの遺伝子が多数派で、左寄りの遺伝子が少数派であるという今のバランスは、人類が長い時間をかけてたどり着いたちょうどいいバランスなのかもしれない。
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ジョン・スチュアート・ミルは、リベラルと保守主義について、「健全な政治を行うためには、秩序や安定性を標榜する政党と、進歩や改革を説く政党の両方が必要だ」と述べている。
『社会はなぜ左と右にわかれるのか』より引用
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1978年生まれ。大阪府出身。
現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出合った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。
著書に『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)のほか、『しないことリスト』『知の整理術』(だいわ文庫)、『夜のこと』(扶桑社)などがある。