「元・日本一有名なニート」としてテレビやネットで話題となった、pha氏。
「一般的な生き方のレールから外れて、独自のやり方で生きてこれたのは、本を読むのが好きだったからだ」と語り、約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した。
本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介する。

「満員電車は異常だ!」おかしいことをおかしいと言うための読書のすすめPhoto: Adobe Stock

読書で「子どもの視点」を取り戻す

 読書が世界を変えることができる理由は、人間は言葉で世界を認識しているからだ。

 僕は穂村弘(ほむら・ひろし)の『短歌という爆弾』という本で、奥村晃作(おくむら・こうさく)という歌人を知った。

 奥村晃作の短歌は、「ただごと歌」と呼ばれていて、とても当たり前のことを、当たり前に書いている。だけど、なぜか面白い。

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次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く
 奥村晃作

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 そんなことは当たり前だ。当たり前すぎてわざわざ考えたこともなかった。

 だけど、あらためて言われてみると、なんだかそれは面白いことのように感じる。

 これは、世界を初めて見たときの、「子どものような視点」なのだと思う。

 僕らは普段、いろんなものをちゃんと見ずに、自動的に処理している。日常で見るもの一つ一つについて疑問を持っていたら、まともな生活が送れないからだ。

 だけど、その自動的な処理のせいで、本当は面白いことや、本当はよくないことを、気づかずにスルーしてしまっている。そのことに気づかせてくれるのが子どもの視点なのだ。

世の中に「疑問」を持ち続けるために

 僕は、満員電車に乗るたびに奥村晃作の次の歌を思い出してしまう。

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もし豚をかくの如くに詰め込みて電車走らば非難起こるべし
 奥村晃作

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 言われてみれば確かにそうだ。豚をこんなにぎゅうぎゅうに詰めて運んだら「それはよくない」という声が上がりそうだ。

 だけど、人間を異常な密度の満員電車で運ぶことは許されている。みんな「そういうものだから」と諦めて受け入れてしまっている。

 でも、本当はもっと「おかしい」と思ってもいいはずなのだ。

 人間は異常な状態にも、すぐに慣れてしまう生き物だ。

 だけど、ときどき、「おかしいものはおかしい」と、ちゃんと思い出したほうがいい。

 このように、読書は、普段慣れきって疑問を持たなくなっていることに、あらためて気づかせてくれる。

 そしてその気づきが、世界を変えるきっかけになる。

pha(ファ)
1978年生まれ。大阪府出身。
現在、東京都内に在住。京都大学総合人間学部を24歳で卒業し、25歳で就職。できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターとプログラミングに出合った衝撃で会社を辞めて上京。以来、毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。
著書に『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)のほか、『しないことリスト』『知の整理術』(だいわ文庫)、『夜のこと』(扶桑社)などがある。