「Photoshop」や「Illustrator」といったクリエイター向けのツールから出発し、現在は大きく3つの分野でソフトウエアを提供するアドビ。ここ10年で株価は21倍、時価総額約35兆円という巨大企業にまで成長した。特に2020~21年は新型コロナウイルスのパンデミックが“追い風”になり、業績は絶好調だ。クリエイター向けツールのビジネスと、文書向けビジネスを統括するデジタルメディア・プロダクト・マーケティング担当 上席副社長 アシュリー・スティル氏に、クリエイターや企業のDXに必要なこと、これからの成長戦略などについて話を聞いた。(テクニカルライター 笠原一輝)
世界第2位のPC向けソフトウエア企業はどこ?
まずは、ちょっとしたクイズから始めよう。パソコン向けのソフトウエアを提供している企業で、時価総額が世界2位の企業はどこか、ご存じだろうか?
1位はマイクロソフト。これはすぐに出てくるだろうが、2位はどこかと言われると答えに詰まる人も多いかもしれない。答えはアドビ(Adobe)。「Photoshop」(フォトショップ)を提供している会社だと聞けば、「ああ」となる方は多いのではないだろうか。今や、顔写真からシワやシミを消して見栄えをよくしたり、背景を差し替えて新しい風景写真を作り出したりすることを、英語ではそのまま動詞として”photoshop”と言うなど、写真を編集・加工することの代名詞的存在になっている。
アドビが米国で創業したのは1982年。Photoshopの大ヒットで、一躍有名になった。その後、同じくクリエイター向けのツールを提供する企業の買収を繰り返し、イラスト作成ツールの「Illustrator」(イラストレーター)、動画編集ツールの「Premiere Pro」(プレミア・プロ)など複数の人気ツールを抱える。2012年はこれらをセットにして、サブスクリプション(月額、あるいは年額ベースの定期契約)型のクリエイターツール「Creative Cloud」(クリエイティブ・クラウド)として提供を開始。世界中のクリエイターから支持され、契約数を増やし続けている。
近年、アドビはさらにビジネスの幅を広げており、デジタル文書のスタンダードと言えるPDF閲覧・編集ツールのAcrobatをベースに発展した「Document Cloud」(ドキュメント・クラウド)、企業がデジタルでさまざまなマーケティング活動や顧客サービスを展開するプラットホーム「Experience Cloud」(エクスペリエンス・クラウド)など、クリエイター、文書、企業のマーケティング活動のDX化を進めるためのソリューションを提供するソフトウエアサービス企業へと進化している。