リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

いまだに「リモートが苦手」なマネジャーは、10年後に消えるPhoto: Adobe Stock

「社会人としてこうすべき」は
もはや通用しない

 ポジティブな仕方であれ、ネガティブな仕方であれ、メンバーに一定の外的刺激を与えて、その行動を変容させることこそが「リーダーシップの本質」だと盲信されてきました。

 真面目で優秀なリーダーほど、なんとかチーム内の熱量の差を乗り越えようと、「モチベーションを高めるためのアクション」を繰り返しているはずです。

 しかし、結論から言えば、こうしたやり方はもはやうまくいかなくなりつつあります。

 1つめの理由はごく単純です。

 外部から働きかけて(ある意味では強制的に)部下を動かそうとする手法は、今日では「ハラスメント」になるリスクを抱えています。

 もちろん、すべてがそうだというわけではありません。

 しかし、少なくとも「社会人としての義務」だとか「組織人としての責任感」などに訴えかけていく前時代的なやり方は、明らかに効力を失っています。

 たとえ本人のためを思ってであっても、あるいは、たとえ組織にとって「正しいこと」であっても、その種の“べき論”の押し売りを続けるならば、部下にはかなりネガティブな受け止め方をされる可能性が高いでしょう。

 パワハラ訴訟にまで発展するケースは稀かもしれませんが、チームから人が離れていったり、組織全体の意欲低下が生じたりといったマイナス結果を招くことでしょう。

もはや「上司のプレッシャー」は効かない

 また、外部からの働きかけによって「モチベーション」を高めようとするやり方は、「空間的な近接」に依存していることが少なくありません。

 大半の外因的な働きかけが効果を発揮するのは、同じオフィスで毎日顔を合わせて、お互いの仕事ぶりや情緒をそれとなく把握しているようなチームにおいてこそなのです。

 そのような条件が失われれば、その効力も低減します。

「上司がいつまでも残業をしており、部下たちもなんとなく帰りづらい」
「不機嫌そうな上司の顔色を窺って、部下たちも必死にがんばる」
「上司が資料を読み上げるだけの会議に、とりあえず出席しておく」

 いまだに社内でこういう古典的な構図が見られることもあるかもしれません。

 これらはいずれも「空間的な近接」に頼ったマネジメントスタイルです。

 こういう手法に頼ってきたリーダーは、リモートワークに心理的な不安を覚えます。

 部下が物理的に近くにいないと、外因的刺激のパワーが失われるからです。

「在宅勤務OKになった途端、パフォーマンスが低下した」というチーム・組織は、リーダーが空間的な近接に依存していた可能性が高いでしょう。

 程度の差こそあれ、今後、社会全体が「リモートでできる仕事はリモートで」という方向に行くことは間違いありません。

 だからこそ、リーダー本人が不在であっても成果を出し続けるチームは、現代のリーダーシップにとって最も切実な課題の1つなのです。

 いまだに「部下が目の前にいてくれないと、チームを動かせない」などと言っているリーダーは、10年後にも同じ言い訳が通用すると思っているのでしょうか。

 いまこそ、自身のリーダーシップを更新するチャンスであることを、いま一度認識しておきたいところです。