今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。著者の太刀川英輔氏は、慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化と創造性には共通の構造がある」ことを見いだした。2年ぶりのノーベル賞受賞に沸く日本。しかし、今年度の物理学賞受賞者の眞鍋淑郎氏は日本とアメリカの研究を比較した上で、日本の科学の将来について憂慮するように「日本には帰りたくない」と発言した。日本の研究や科学技術は、現在どのような状態なのか。その根底には非創造的な状況とも言える研究者の生態系が見えてくる。そして太刀川氏と一緒に進化思考から読み解くと、その環境を創造的に変化させるためのわずかな希望も見いだせるかもしれない。
日本の若手研究者の現在地
前回の記事では、ノーベル賞を受賞した研究は、研究者が若い時代、平均年齢で言うと30代中盤に行われていたことをお話ししました。つまり、若手研究者にチャンスを与え挑戦を応援することが国の科学の将来にとって大切なのです。この前提を踏まえた上で、日本の若手研究者の厳しい現実を見ていきましょう。
このグラフは主要国における大学部門の研究開発費の推移を示したものです。日本の開発費は下落傾向が続き、現在は先進国の中でかなり低い状況にあることがわかります。その少ないお財布を取り合った結果、誰が苦しんだのか。それが次のグラフに示されています。
このグラフは日本の国立大学教員の年齢と雇用の状況を示したものですが、最も生産性が高いはずの40歳未満の大学教員は、減り続けていることがわかります。さらに任期のないテニュア(終身雇用資格)の若手教員の数も減り続け、将来が守られていない任期付きの若手研究者の割合が増えています。