今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。著者の太刀川英輔氏は、慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化と創造性には共通の構造がある」ことを見いだした。2年ぶりのノーベル賞受賞に沸く日本。今年度の物理学賞受賞者の眞鍋淑郎氏をはじめ、過去の受賞者たちについて調べていくと、受賞のきっかけとなる研究は30代半ばに行われている傾向が見えてくる。今回は創造性と年齢の関係について、進化思考を用いて考察してみたい。
ノーベル賞に見る創造性
こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化から創造性を学ぶ思考法「進化思考」を提唱しています。こんな研究を始めたのも、デザイナーである私自身が創造的になる方法を知りたかったから。こうして、いつの間にかデザインだけでなく科学や芸術を含めた広い意味での創造性に興味を持ちました。
人の創造性が最も高く評価された栄誉こそ、ノーベル賞と言っても過言ではないでしょう。そこにデザインと共通の構造があるかもしれないと思って、いつのまにかノーベル賞についての本を読みあさるようになりました。実は進化思考の本にも、ノーベル賞を作ったアルフレッド・ノーベルによるダイナマイト開発の逸話だけでなく、約20人のノーベル賞受賞者の研究的着想などを紹介しています。
そして先日、2年ぶりに日本出身者のノーベル賞受賞が発表されました。ご存じの通り2021年は、眞鍋淑郎氏の「気候モデル」が物理学賞を受賞しました。現在では常識となったCO2と気温上昇の因果関係を予測した統計モデルを作り、気候変動研究の礎となりました。そして2019年は吉野彰氏の「リチウムイオン電池」。EVやデジタル化、エネルギーの基盤として社会の隅々にまで浸透しています。これらの持続可能な社会の基盤が日本出身の科学者から出てきたことに誇りを感じますね。
しかしそんなお二人はまた、日本の研究の将来を憂慮しています。特に眞鍋氏は受賞後の記者会見で、日本では自身の研究がなしえなかったことを語り、また科学立国日本の危機的状況を強い言葉で憂えています。日本の研究環境はどれくらい非創造的な状況なのか、改めて進化思考的考察から観察してみましょう。